1人で大晦日を向かえるのってこれで3回目か…最初は気楽だなーなんて思ってたけど、3回目ともなると妙に寂しくなっちゃったなって思って…
「遊びに来てみたの?」
「そう、そしたらさー女の子って少ないんだね」
「あら、余りモノで悪かったわね」
「いや、そういうんじゃなくてさ…人妻店だし、大晦日は家族で過ごすよなーなんて思ってたら、また寂しくなっちゃってさ」
「 … 」
大晦日にお店に出勤すると毎年最後のお客様はこんなカンジの人だった
毎年デジャヴのように繰り返される会話に飽き飽きしていた私はお客様の話しを受け流していた
お客様もそんな空気を察したのか、大晦日に1人は寂しいという話題をいつの間にか止めていた
「1人暮らしなの?」
「あぁ、こんな歳くってるけど、独身なんだ」
「歳くってるって、そんな歳でもないでしょう?」
そう言いながら私は絶対歳をとっていると思っていた
若作りを頑張っているおじさんという言葉がピッタリな見た目だったから
髪の毛はもう薄くなってきているのに茶色く染めていて、肌の色を浅黒く焼いている
古着風のジーパンにネルシャツ、ターコイズの入ったシルバーのネックレス…
「本当にそう思う?」
「うん」
「そっか…じゃぁまだまだイケるかな?」
「イケる、イケる!」
おじさんが若作りするって見た目ちょっと切なくなるかもしれないけど、ネガティブよりはポジティブに生きた方がいいかなって、私は思うからとことん褒めるようにしている
「…君には家族はいないの?」
「私は母親と2人暮らしです」
「お母さんと?」
「うん、お母さんちょっと足が悪くて」
「 … 」
本当だった
私はひとりっ子で親の面倒を見ながら、この仕事をしていた
兄弟もいないし、結婚もしてないから、この人とさほど変わりはない
だからネガティブよりポジティブに生きた方がいいというのは、自分に言い聞かせているのかも知れない
「実家には戻らないの?」
「あぁ、実家近いんだよ、横浜」
「横浜!」
「近いでしょ?だから逆に帰りづらいというか…妹がいるんだけど、妹と母親が仲良くて帰りづらいというか…あ、ちなみに父親は俺んとこも、もう他界してるんだ」
「どのくらい家に帰ってないの?」
「…3年ぐらいかな?いい加減、家に居づらくなって1人暮らし始めたのが3年前だから」
「…家に帰ってみたら?」
「何で?」
「…お母さんきっとあなたが帰って来るのを待ってる気がする」
私はまた心にも無いことを言っていた、羨ましかったからだ
私は家を出たくても出れないし、妹に母親のことを押し付けるということも出来ないからだ
「そうかな…おふくろ待ってんのかな…」
「待ってると思うよ」
他人の母親が息子のことを待ってても待ってなくてもどっちでも良かった
きっとお客様がそんな答えを求めているような気がしてたから、そう言っただけだった
その後はプレイを滞りなく終えて、お客様は帰っていった
最後、何にスッキリしているのかは解からなかったけど、お客様は爽やかな笑顔だった
後日、お正月早々お店に出勤したら、従業員が私に手紙を渡してきた
「何ですか?これ?」
「多分大晦日最後についたお客様だと思うんですけど…」
「え?何で?何それ?」
「今日朝イチで来て、それ渡してくれって」
「 … 」
気持ちが悪かったけど、封筒を開けて手紙を読んでみた
手紙にはこう書かれていた
『久しぶりに家に帰ることにしました
あなたがあのとき、ああ言ってくれたので、その言葉がきっかけになりました
ありがとう、どんなプレイよりも気持ち良かったです』
私は手紙でイカされるなんて初めてだと思った
一緒に過ごした時間よりも繋がっている気がした
end
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