今月は新潮、文學界、群像、すばるの4誌が発売された。4誌の概観をここで紹介しよう。
新潮 2023年3月号
・谷川俊太郎による新作詩「死神 他二篇」。
・東京から遁走し着いた四万十川のほとりには生死の境を越えた聖なる空間があった。昨年映画『はだかのゆめ』が公開された映画監督としても知られる甫木元空による初小説「はだかのゆめ」が掲載。小山田浩子による「森の家」も。若き母が訪れた森の豪邸、足の悪い少女の思い出。はとこから聞く、あり得た母の人生を描く。
・ヤマザキマリ+とり・みきによる「プリニウス」が連載完結。
・昨年末に亡くなった、日本を代表する建築家の磯崎新。安藤礼二が「磯崎新の最後の夢 イランの「間」展をめぐって」を寄稿。
文學界 2023年3月号
・創作では、山下紘加「掌中」が掲載。ふとした切っ掛けから万引きを繰り返すようになる主婦の幸子を描く、著者の新境地。そのほか、長嶋有「そこにある場所」、絲山秋子「赤い髪の男」、二瓶哲也「それだけの理由で」が掲載。
・第168回芥川賞を受賞した井戸川射子と佐藤厚志による特別エッセイ「等しく私から遠い場所」、「先輩作家の背中」を掲載。「作品論」として、宮崎智之「川下に流れゆく〈いま〉をキャッチする――『この世の喜びよ』論」、鴻巣友季子「傷の延長としてある「災厄」――『荒地の家族』論」をそれぞれ掲載。
・『水平線』で織田作之助賞を受賞した滝口悠生に密着。最新刊『ラーメンカレー』にちなみ【特集】「滝口悠生の日常」として、生活の愛おしさを描き続ける作家と一緒に歩いたり、しゃべったり。キーワードは「散歩」「窓目くん」「日記」。〈散歩〉「風景の一部になってみる――ルポ 秋津散歩」(取材・文、辻本力)、〈雑談〉「昼下がりに友人と」滝口悠生×窓目均/滝口悠生×植本一子×金川晋吾で作家の日常を届ける。
・【西村賢太一周忌】として、古谷経衡が「『蝙蝠か燕か』論――西村賢太の「現代編」」を寄稿。
・個人的に注目したいのは、國分功一郎とブレイディみかこによる対談「〈沈みゆく世界〉から立ち上がる」だ。世界的不況の中、過去最大のデモで50万人とも言われる人々が集結したロンドンのニュースも記憶に新しい。いまや日本を代表する哲学者である國分と、英国在住のブレイディは先行きの見えないこの世界について、なにを語るか。
群像 2023年3月号
・羽田圭介による新連載「タブー・トラック」がスタート。マスコミの過剰な配慮、SNSでの誹謗中傷、敬語を使う暴力男。彼らはなぜ自分の「正しさ」を疑わないのか。抑制された筆致で現代の〝タブー〟に切りこむ渾身作。
・『この世の喜びよ』で第168回芥川賞を受賞したばかりの井戸川射子が早くも受賞第一作となる詩「それは永遠でない、もっとすごい」と短篇「野鳥園」をお届け。出会わなかったはずのふたりが出会う、ひとり言のように出ていく声が交わる。四方八方の鳴き声、しんと静かな家、ヘッドホンに響くエレクトーンの音―ここに世界が立ち上がる。
・小川公代による新連載評論「翔ぶ女たち」がスタート。好奇心のおもむくまま、心が躍動するままなにかに夢中になることの素晴らしさ。野上弥生子と彼女の文学作品を手がかりに、これまでの、そしてこれからの「女たち」が辿る道を照らしだす。生の輝ける瞬間を言祝ぐ、新連載評論。
・小峰ひずみによる群像新人評論賞受賞第一作「大阪(弁)の反逆 お笑いとポピュリズム」が掲載。お笑い芸人の闘いは、日本語内部でのポピュリズムとして描かれていた――。前衛的コミュニケーションの基盤にあるべき〈快楽〉について問う、自己批評的試論。
・とあるアラ子×藤野可織による対談「ルッキズムが溶け込んだ「まあまあ最悪なこの世界」を考える」。「小さな攻撃」が生み出す傷。私たちが漫画や小説から掬いとったものとは、なんだったのか。『青木きららのちょっとした冒険』刊行記念対談。
すばる 2023年3月号
・小説では鴻池留衣「すみれにはおばけが見えた」、三角みづ紀「きみさがし」が掲載。
・昨年、没後30年を迎えた中上健次。これを記念し、熊野大学夏期特別セミナー「没後30年の中上健次」が開催された。【熊野大学夏期特別セミナー 講演載録】として、松浦寿輝「中上健次の「文」」を掲載。
・ここ10年ですっかり定着した韓国文学。昨年11月に都内で開催された『K-BOOKフェスティバル』も盛況のうちに終わった。【K-BOOKフェスティバル公開対談載録】として、中島京子×キム・エランによる「小説家としての過去、今、そしてこれから」。
・くぼたのぞみ×斎藤真理子「曇る眼鏡を拭きながら」、出口菜摘「アメリカ詩の体温、彼女たちの横顔」がそれぞれ最終回を迎える。
以上、2023年2月発売の4誌について、概観を紹介した。読書の一助になれば幸いである。
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