2017年12月3日、神戸市東灘区の児童書専門書店「ひつじ書房」が閉店した。1975年に開業した同店は、幼い子や孫をもつ地域住民のみならず、遠方からも児童書愛好家が訪れる名店として知られていた。閉店理由は、店主の加齢および後継者の不在だと説明されている。

店主の平松二三代氏は1931年生まれの現在86歳。大陸からの引き揚げ者として過ごした少女時代はけっして恵まれたものではなかったが、本を読む時間だけが心の支えだったという。趣味が高じて神戸市立図書館に就職すると、以来35年にわたって児童室担当を勤め上げた。その後、夫の早期退職に伴って夫婦で開業したのがひつじ書房だ。

ひつじ書房の人気の理由は、なんといってもその選書にあった。たとえ売れ筋であっても店主のお眼鏡に適わない本は一切置かないというスタンスを徹底しており、今でいうセレクト書店の走りといえた。なにより重視したのは「言葉を味わう面白さ」で、仕掛け絵本の類も扱わなかった。図書館時代から多くの児童書に触れてきた平松氏の目利きはたしかで、近隣の図書館や児童館からもしばしば選書を依頼されるほどだったという。

もともと採算度外視でひつじ書房を経営していた平松氏は、個人的にはまだまだ店をつづけたい気持ちがあったようだ。しかし、高齢者がひとりで店番をすることの危険さを周囲から説得され、苦渋の決断となった。志のある書店がなくなってしまうのは残念である。