封筒のなかには会員証と三つおりの便箋がはいっていた。便箋には「母が亡くなりました。出資金は寄付させて頂きます」とある。なかなかの達筆だと小川裕二はおもった。うんざりだった。こういう字で、こういう内容の文章を書くひとと、かれはうまくはなしがつうじたことがなかった。
パソコンに会員番号をうちこみ、会員情報をひらいた。電話番号をかくにんすると、呼吸をととのえて、受話器に手をのばした。
五度目のコールであいてはでた。「はい、木下でございます」という女性の声は、くだんの達筆から想像したとおりのものだった。裕二はじぶんがコープの職員であることと、組合会員の脱退には会員証のほかに脱退届の記入がひつようであること、そして出資金の寄付はできないということを丁寧につたえた。とたん、女性は激昂した。
――こっちは好意で寄付したいと言っているのよ。あなたね、その好意をうけとれないと言うの。
裕二は毅然とした態度でこれに対応した。どうにか納得してもらって電話をきったときには三十分間もの時がすぎていた。ながーい電話だったねえ、と裕二のとなりにすわる杉田が言った。そんなていねいにあいてしなくて良いのよ。はい、でもクセで。まえのしごとって市役所だったっけ。そうですね、大学卒業して五年ほどつとめました……、と会話をつづけながら裕二はパソコンでこども園におくるための請求書を作成した。「印刷」をクリックすると、プリンタがエラーをつたえる音をたてた。見ると、紙が尽きたのだった。裕二は杉田にコピー用紙のある場所をきいて、かのじょが指さしたさきにむかった。二箱ほどもらってきてくれる、と杉田は裕二のせなかに言った。
はたして、裕二は、まよった。ちかくに、しろいジャージを着た髪のながい女性がいたのでかのじょに声をかけた。
――コピー用紙なら、そこの部屋よ。
裕二は礼を言った。
――あたらしい人ね。
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