土曜出勤を終えて帰宅すると、家はもぬけのからだった。私は缶ビールをあけた。つまみがなかったので茶づけをつくった。
スマートフォンにおくられて来た妻からのショートメールによればふたりはディナーに行ったらしい。私はつい先日ガラパゴス携帯からスマートフォンに機種変更したばかりで、コミュニケーションアプリのたぐいはまだひとつもインストールしていない。なにを食べるとも書かれてない。いまごろ娘のインスタグラムには料理をかこむふたりの写真がいくつもアップロードされているはずだ。
「ともだちみたいな親子ですね」
というのは、どこのだれとも知らないが、どの写真にもつけられるコメントだ。人気インスタグラマーには、血のかよっていないうすい賛辞があつまる。
テレビをつけた。野球がやっていた。興味がなかった。ただぼんやりとそれをながめた。
――理解がないのよ。うちのは理解がない。
と妻は言う。
――うちもよ。
右隣に坐っている女が共感した。うちもうちもと波が立つ。
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