僕がこんなふうに毎日このお店に行ってしまうようになったのは、やはり妻が死んで1人になってしまったからだろうなって思う
1人ということがこんなにも孤独だということを身にしみて感じてしまったからだろうなと思っている
毎日を消化していくような、こんな毎日が物凄く辛い
若い頃は毎日が楽しくて、その毎日が刺激的だった、毎日を消化している感覚なんて…これっぽちもなかった
なのに今はこんな状態だ、こんなにも孤独だ
この残された膨大な時間をどう過ごしたらいいのか、ずっと考えている老いたじいさんが自分だ
この老いたじいさんが自分なんだ
・
「あのオノってじいさん、店に毎日来てるらしいよ」
「毎日?」
「そう、毎日!店にとってはかなりの上客だからさー失礼のないようにって」
「そんなこと言うんだ、店長?」
「そう、ほら私言い方とか言葉キツいじゃん?」
「そんなことないと思うけど…」
私はかなり驚いた
週1で私を指名してくれているお客様が毎日お店に来ているなんて…しかも毎日なんていったらお金が大変なんじゃないだろうかと逆に心配してしまう
「 … 」
他の女の子に入ってることに嫉妬するというよりもむしろそっちの方を真面目に心配してしまう
オノさんは毎回120分コースで入るから、指名料も合わせて大体総額3万円になる
それにプラスホテル代がかかるので、毎日なんて言ったら3万円×約30日で約100万円になる
「そんなにお金使ってもったいなくないのかな?」
「はぁ?アンタ何言ってんの?」
「いや、何か…お金持ちなんだろうけど…もういい歳なんだし老後のためにとっておいた方がいいんじゃないかな?」
「何アンタ、あんな風俗狂いのジジィのこと心配してあげてんだ?」
「うん…だってそんなにお金があるんだったら…いい老人ホームに入るとかさ」
「…風俗狂いのじいさんには風俗狂いになる何か理由があんのよ」
「 … 」
毎日大金を使うことにどんな意味があるのだろうか?
・
今日はこの子が久しぶりに出勤するんだな…じゃあ行ってやらないとな
明日はあの子が出勤するって言ってたな…逢いに行ってやらないと
こんなことを毎日考えてる、というよりもそんなことを毎日考えてるようにしている
そうすると毎日過ぎていくのが早いんだ
・
「今日も逢いに来たよ」
「…こんにちは」
彼女は僕が1番気に入ってる女の子
「今日も暑いですね」
「そうだね」
毎回たわいのない会話から入って、ホテルまでの道のりを歩く
彼女はいつも僕を気づかい、僕の顔をよく覗きこむ
「 … 」
彼女はきっと僕が不毛なことをしていると思っているんだろう
そしてそのことを心配している
僕はそんな彼女の傍にいるのが心地よかった
「あっ…」
彼女のカラダを触り、抱きしめると全てを忘れられるような気がした
自分が本当に孤独であるということを忘れさせてくれた
『…風俗狂いのじいさんには風俗狂いになる何か理由があんのよ』
何か理由があるとしたら何だろう?って、オノさんに触られながらずっと考えてた
でも何も思いつかなくて、ただオノさんに触られてた
オノさんは抱きしめる力が強くて、時々苦しかった
「 … 」
私はいつもオノさんに抱きしめられると苦しいんだけど…でも何故かそのときに濡れてしまう
しかも溢れるほどに。
end
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