ゆふぐれ
街並が しろく ふくらんで
摩天楼の あひだから
うぶごゑが ひとつ おちて
ガラスに あたって くだけた
ちひさい ゆびが
ちひさい ゆびを にぎってゐた
ぬくい、 ぬくい、 しか
おもひだせない
エスカレーター の あたたかい背に
のせられて のぼってゆく
かげの 舞 に ぬくみは うすまり
ちぶさは ガラスに なり
ガラスは あをばかりを うつした
舗道に
こぼれた しろい 街灯を
ひろふ手は なく
すゝり泣くやうに
じッと 街は ぬれてゐる
蛍光燈が
ちらちらと
夜の ちぶさを
吸ってゐる
うぶごゑは ガラスに くだけ
うぶごゑは 自動扉に すひこまれ
うぶごゑは
もう だれのもの でも なくなった
街は ふくらみ
街は しぼみ
街は だれの 母でも なく
だれの こども でも なくなって
あゝ 甘乳を すてて
孵る、 と いふこと
ぬくい、 ぬくい、 しか
おもひだせない 指の
その ぬくみ の まゝ
うぶごゑ ばかりが
雨 の やうに
舗道に たまってゆく
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