〈10〉
改札からスロープを下って線路沿いの道に出る。
右に曲がって歩道を歩いていく。
居酒屋からは酔っぱらったサラリーマン風の男たちが出てきて、いつまでも別れの挨拶を繰り返していた。
その脇をすり抜けて隣のビルの狭くて急な階段を上がる。
上がったところにエレベーターがあるので、乗り込んで5階へと上がった。
降りたところには赤い鉄扉があって、その奥が店だ。張り紙には「エステ・愛スクリーム」と書いてあった。
「ういー、いらっしゃいませ」
と客の顔も見ずに店員が言った。店員ではない、この男は店長だ。初めてではないので顔は知っている。
「ご予約ですか?」と行ってこちらを見て「ああ、お客さんか。予約ですよね」とようやくぼくだと気づいたようだ。
「15分で入れますから、そちらでお待ちください」と行って、携帯に電話をかけた。
ぼくは店の狭い待合室に座って、エロ週刊誌を手にしてペラペラと眺めた。
店長は電話で、じゃああと15分でお客さん行くからと言っていた。それはぼくのことだろう。
店長はぼくにコースはどうするか聞いてきた。おすすめは何かと聞くと90分だというので、じゃあそれでと答えた。
他には短い40分コースと60分コースもあるけれど、そういうのはバタバタするので好きじゃない。
2時間以上のコースだと、女の子が合わない場合苦痛な時間が続くのでリスキーだ。90分ぐらいがちょうどいい。
15分とは言っているが、実際は女の子から連絡が来るまで待つようだ。
支払いを済ませて、ぼくが手持ち無沙汰にしていると、店長が話しかけてきて「仕事帰りですか」などと聞いてきた。
「ええまあ」と答えて「遅くまで大変ですね」「IT系なんで」などと他愛もない会話をした。
「じゃあホームページなんか作れたりするんですか」「まあ、できますね」なんてことを話していたら女の子から電話がきた。
店長がぼくに小さなメモを差し出した。汚い字で「504 りんか」と書いてある。
カウンターの地図を指して、道順を教えてくれた。このビルではない別の建物のようだ。
駅前のビルを出て、バス通りを渡り、路地を入って裏通りの古いマンションに着いた。
エレベーターで5階へ上がり、504の前に立つと、扉が薄く開いた。
メモを見せるとすらっとした女が小声で「どうぞ」と言った。
マンションの中は薄暗く、いくつかの小部屋に仕切られていて、ぼくはその1室に案内された。
うながされるままに部屋に入ると、「すこしお待ちください」とすらっとした女が言った。
すらっとした女は奥の方で誰かと会話していた。何を言っているかわからないが、たぶん中国語だろう。
服を脱いでバスタオルを巻き、ベッドに座って待っていると、さっきとのすらっとしたのとは別の女が現れた。
ちょっと背が低くて肩幅がしっかりしている感じだが、ひどいブスでもないので安心した。
キャミソール姿の女は痩せ型でもないのに胸が小さくて残念だが、贅沢は言うまい。
「お客様シャワー行きます」とがっしりした女が他の女たちに聞こえるように言って、ぼくはバスタオル姿でユニットバスへ向かった。
この店は客だけでシャワーを浴びるシステムらしい。軽く流してすぐに上がった。
バスタオルを渡されて体を拭いて、小部屋へと戻った。
ベッドに横になると、がっしりした女が上からぼくにバスタオルをかけてマッサージがはじまった。
ひととおり足まで揉みほぐしたところで、仰向けにされた。
どうする? と聞くのでいくらか聞くと指を1本立てるので、財布から1万円を出して渡した。
"ディビジョン/ゼロ(10)"へのコメント 0件