俊足の校長

大川縁

580文字

実在する小学校の校長のことです。月日がだいぶ経ちましたのでもう定年退職されていると思いますが、ちょっと人間離れした雰囲気のある方でしたのでわからないですね。

かれこれ20年くらい前になるが、私が通っていた小学校の校長は少し変わり者だった。

脚力が自慢で、ある時体育の時間に50m走をしていると、どこからともなくフラフラを現れて

走っている生徒の横を全力で走りはじめた。

そして圧倒的な差をつけてゴールすると、またどこかに消えてしまう。

 

またある時は、プールの時間になると

すでに参加が決まっていたかのように水着で待機していて、

一緒になって泳いだ。

私は低学年の頃、水に顔をつけることができず泳げなかった。

すると校長がこちらに寄ってきて

私の手を掴むと、水に顔をつける練習をしてくれた。

それから不思議なことに、たいした時間もかからず水に潜れるようになり

何事もなかったかのように、私は泳げるようになった。

 

さらにある時、廊下を歩いていると、対向から校長が歩いてきているのがわかった。

他の生徒が何やら校長につかまっていて、少しの間をおいて解放される。

これが数回続いた後、私の目の前に立ちはだかった校長は、

その長い両腕を廊下の横幅いっぱいまで広げ、通せんぼのポーズをとった。

「ここを通りたければ、私にジャンケンで勝ちなさい」

といった意味合いの右手拳を突き出し、

本当に、勝つまで通してもらえなかった。

 

校長は数年で異動してしまったため、

子供心に「変なおじいさん」という強烈な記憶を残して

風のように去っていった。

2016年10月26日公開

© 2016 大川縁

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