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獄門蝶

無花果回

ゆるしたのは蝶ではなく、ゆるされたかったのは、見にきた僕らのほうだった。

詩

917文字

コンビニの袋、ゆれて、
帰り道をすこし曲げて、門の前をとおる、
ぼくたちはそれを、教育、と呼んだり、供養、と呼んだりして、
ほんとうは、夕飯のまえに、心臓を速くしたかっただけなのに、
ひとの顔が、こちらを見ていないことに安心して、帰る。

 

蝶が来た。

 

蝶は知らない。
知らない、はぼくらの側の言葉で、
蝶にとってそこは、風のちょうど止まる高さ、というだけで、
とまる、という動詞に、ゆるす、の意味はない、
ないのに、みんな、すこし泣きそうになって、
それを、うつくしい、と呼んで、
呼んだ瞬間に、見物人じゃなくなった気がする、
気がする、だけなのに。

 

さらす、と、さくら、が似ているのはたぶん偶然で、
偶然だから、春はいつも、すこしだけ、間違える。
獄門、と、極彩、も似ている。
音がとなりあうだけで、意味はこんなに遠くへ行けるんだ、
ぼくと、きみ、みたいに。

 

罪、という字は重いとずっと思っていたけれど、
重いのは字じゃなくて、字を持つ手のほうで、
おれの手も、さっきまで、パンをつかんでいた。

 

おれは誰も責めない、と言うとき、
おれは、責めない人として、きれいに見られたがっている。
やさしさの奥に鏡がある。
鏡は、こっちを向いている。

 

羽の粉が、風にのって、
だれかの洗濯物に、だれかのスープに、教室の床に、地層に、
そのうち、星に。
星の光は死んだあとも届くらしいけど、
届いたところで、返事はできないよ、
ぼくは、きみが返事をできる距離で、死にたい。

 

生きたい、でもいい、
たぶんおなじことだと思う、
名前をつけかえたい、名前をつけずにいたい、名前のまま抱きしめたい、
どれもほんとうで、どれも、あとから嘘になる。

 

門は、閉まらないから門なんだよ、ときみが言った。
言ってないかもしれない、
ぼくが、言ってほしかっただけかもしれない。

 

蝶が、また、羽をひらく。
音はしない。
音がしないことを、しずけさ、と呼んで、
しずけさを、ゆるし、と読みかえて、ぼくたちは、ごはんを食べる。

 

とんでいけ。

 

とんでいけ、と書いたとき、
ぼくは、きみをここから消したのだと思う。
明日も、遠回りをする。

© 2026 無花果回 ( 2026年9月14日公開 )

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