イーロン・マスクがやって来た

イーロン・マスクが家に来た。

突然、スマホのＴｗｉｔｔｅｒ（現：Ｘ）の通知がピコンピコンとうるさく鳴って、見るとイーロン・マスクからのＤＭ、メッセージだった。玄関開けろって書いてあった。Ｔｗｉｔｔｅｒ（現：Ｘ）のＤＭはフォローしてないと出来ないとか、そういうものだと思っていたので驚いた。勿論私はイーロン・マスクのフォロワーではない。イーロン・マスクだって私のフォローはしてない。なのになんだ。何なんだ。なんかやっちまったのか。と思った。結構怯えた。怯えながらドアを開けると普通にイーロン・マスクが立ってた。スーツだった。黒の。中のワイシャツは襟が立っていた。そんで、

「おう、お前が和委志千雅か」

と言われた。日本語で。ちょっと待ってと思った。私はネットでイーロン・マスクの写真を検索して見比べた。あと、Ｔｗｉｔｔｅｒ（現：Ｘ）で私は名前を和委志千雅でやってる。しかしそれにしたって色々とごちゃごちゃしている。

整理したいと思った。
・破滅派では小林ＴＫＧ。Ｔｗｉｔｔｅｒ（現：Ｘ）では和委志千雅。
・イーロン・マスクが家に来た。日本語でしゃべった。
・ネットでイーロン・マスクを検索した。顔写真と家に来たそれを見比べた。
・なんでイーロン・マスクが家に来たの？
「イーロン・マスクですか」
「他に誰に見えるんだよ」

いやでも、そっくりさんとかじゃないの。日本に居ないでしょうイーロン・マスクが。
「来ることもあんだろ」

日本語でしゃべらないでしょう。イーロン・マスクが。
「しゃべってもいいだろ」

そうなんだ。そう言われると。まあ、そうなのかな。トラックにひかれて異世界に行っても言葉とか通じるしな。出川イングリッシュとかもあるしな。まあ、そうなのかもしれない。そういう事もあるのかもしれない。
「な、そういう事もあるだろ」

そうかもしれない。私は視界が狭いのかもしれないな。確かに。いやでもさあ、
「ホントのイーロン・マスクですか」
「なんなんだよお前」

いやだって、イーロン・マスクが家に来ねえだろ。私の所に。都心じゃない。埼玉の。私の家に。借家だぞ。集合住宅だぞ。集合住宅って言ってもあれだぞ。タワマンとかじゃないんだぞ。駅から１５分歩くんだぞ。そんな所にイーロン・マスクが来ねえだろ。Ｔｗｉｔｔｅｒ買収して、名前をＸにして、Ｔｗｉｔｔｅｒの事を書く時、Ｔｗｉｔｔｅｒ(現：Ｘ)って書かなきゃいけなくなったイーロン・マスクのせいで。いや勿論イーロン・マスクのせいばかりじゃないかもしれないけども。でもほぼほぼイメージはそうだよ。イーロン・マスクのせいだよなあ。そのイーロン・マスクだぞ。そのイーロン・マスクが来ねえだろ。家に。私の家に。
「そっくりさんですよね」
「ちげえよ。よく見ろよ」

よく見ろって言われてもなあ。見ないなあ。見た事ないなあ。イーロン・マスクって。写真はあるけど。それこそ山ほどあるんだろうけども。でも、イーロン・マスクを見たりはしないなあ。よく見たりはしないなあ。イーロン・マスクっぽい人が居たらイーロン・マスクって思うだろうなあ。私は。イーロン・マスクじゃなくてもイーロン・マスクって思うだろうなあ。だってよく知らないし。イーロン・マスクじゃないよって言われてもイーロン・マスクじゃないのかあって思うだけだろうなあ。驚いたりしない。そこに感情の波は生じない。イーロン・マスクに対して何とも思ってない。がんばってとか、それ位。ＴｗｉｔｔｅｒをＴｗｉｔｔｅｒ(現：Ｘ)に、Ｘ(旧：Ｔｗｉｔｔｅｒ)にされた時はちょっと思ったけど。何だよＸ(旧：Ｔｗｉｔｔｅｒ)って。って思ったけど。でも、今はもう別に。何とも思わない。Ｔｗｉｔｔｅｒ(現：Ｘ)って入力するの面倒だなって思ってるだけ。
「マジで本当に本人だからな」

イーロン・マスクは言った。
「な、なんすかそれで」

私はこの際イーロン・マスクが本人でも別人でもそっくりさんでも何でもよかった。とりあえずこの異常な状況から日常に戻りたいと思っていた。あと突然にお金とかを請求されたら警察に電話しようと思っていた。
「今日はお前に確認に来たんだ俺は」

確認。確認っすか。
「お前、ＳＮＳごとに名前変えてるじゃん」

え、は、はい。
「これはほんとに全部お前ってことでいいのな」
「え、はい。いいです」
「全部お前な。ｎｏｔｅのユイニコール七里もお前な？　間違いなくな」

は、はい。そうっすね。はい。恥ずかしいんであんまり言わないでください。恥ずかしいんで。
「あっそ。じゃあいいよ。わかったよ」

え、そ、その確認に来たんですか？　わざわざ？　イーロン・マスクが？
「なんだようるせえな。ちょっと観光のついでだよ」

ああ、そうなんだ。ああ、なるほどな。それならまだ、わからなくも、わからないけど。わからなくもないかな。わからないけど。
「時間とらせて悪かったな」

イーロン・マスクが言った。それはなんとなく私の中でイーロン・マスクっぽくない言葉だった。
「もし違ってたらどうするつもりだったんですか？」
「何がよ」
「名前とか、私じゃなかったりとかしたら」
「そしたら凍結だろ。当たり前だろ」

ああそれ、イーロン・マスクっぽい。私の中のイーロン・マスクっぽい。
「じゃあオレ行くから。ありがとな」
「ちょっと待ってください。一緒に牛丼食べに行きましょう。いや行ってください」
「ああ？」

それから私とイーロン・マスクは二人ですき家に行きました。生卵を混ぜた牛丼を食べる私の事をイーロン・マスクは気持ち悪そうに見てきました。その後、二人で写真を撮りました。記念撮影をしました。
「それ、ＳＮＳにあげんなよ」

最後にそう言ってイーロン・マスクは行ってしまいました。

今でも信じられない事ですが、時々その写真を見てその時の事を思い出します。思い出すとなんとなく笑けて来て楽しくなってくるんです。