「田辺さん、袋小路の奥の袋小路に入ったことがありますか?」
「え?袋小路って路地の突き当たり…行き止まりのことでしょ?」
「そうです」
「行き止まりだから、その奥には入れないでしょ?」
「袋小路の奥に袋小路があるんです」
「はは、確かに行き止まりだと思ったら細い路地があって、その奥が行き止まりだってことはありましたけど…」
「そう、そういうことはよくありますよね。でも違うんです。行き止まりだと思ったら、そこに別な袋小路があったんです」
「そんな袋小路があるんですか?」
「あります…いや、ありました。一箇所だけあったんですよ」
「え…ということは今はないってことですね?」
「はい、揺谷(ゆるぎだに)3丁目にあった袋小路です」
「市内の再開発でなくなっちゃたんですか?そんな工事してたかなぁ?」
「いえ…いきなりなくったんですよ」
「そんな馬鹿な…香村さん、からかうのはやめてくださいよ、SFや怪談じゃあるまいし…」
「ところがあったんですよ。間違いないです。恐ろしかった…」
「恐ろしかった? そこで何かあったんですか?」
「出れなかったんですよ」
「袋小路からですか?元来た道を戻るだけじゃないですか?」
「袋小路が延々と続いていたから出られなくなったんですよ」
「でも最後は行き止まりがあるでしょう…」
「ありましたよ」
「ほらね…そこが本当の袋小路なんですよ」
「そこは…墓地でした」
「墓地?揺谷には墓地もお寺もないですよ」
「はい、ありません、でもそこは墓地だったんです。引き返そうとして振り返るとそこも墓場だったんですよ」
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