町田に行きたくなる話

青春放浪(第4話)

消雲堂

小説

755文字

町田に行きたくなった。明日は林間の実家に帰って母親の病院に付き合わなきゃならないからちょうどいいかな?

 

福島の郡山で立ち上げた父親の会社がたった3年で倒産したのは僕が20歳のとき。ちょうど妹が駒沢大学に入学して世田谷の若林に下宿することになってたから、それを心配した父親は良い機会だと考えたのか神奈川県のつきみ野に引っ越した。厚木基地がある大和市の街だね。

当時、田園都市線の終着駅は、つきみ野で、今のように中央林間まで開通してなかったんだ。福島から神奈川に移住するというのはかなり大変だった。だって、生まれ育った街じゃないから親戚も知人も友人もいないんだからさ。

当時のつきみ野は、新興の高級住宅地のような雰囲気があった。そこに東北の田舎町から突然引越してきて、高級住宅が建ち並ぶ中の借家に細々と住む僕たち家族は、先住民の方々には異様にうつったろうね。だから近所の人達の中に最後まで溶け込むことはできなかったんだ。

おまけに僕は大学を中退して漫画家になろうと、ケント紙にGペンでガリガリとわけのわからない漫画を描いている毎日で、所謂、無職の引きこもりのような状態だったから、たまに僕が外を歩いていると「働いていない息子」って差別的な目で見られたなぁ。自意識過剰なんかじゃなくて本当のことだよ。

数ヶ月して下鶴間って隣町に引っ越すことになった。下鶴間の街の最寄駅は南林間だった。今でも実家がある街だ。僕はその頃に「ガロ」や「ぱふ」という漫画雑誌に漫画を投稿し始めた。ガロには掲載されなかったけど、ぱふには2度選外佳作となって有名な脚本家の石森史郎さんに「泉鏡花のような世界だ」と褒められたんだった。ペンネームが高野聖(たかのひじり)って鏡花の作品「高野聖」から、そのままパクったものだったからかもしれないね。

2013年12月1日公開

作品集『青春放浪』第4話 (全9話)

© 2013 消雲堂

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