わかつ

猫が眠る

小説

380文字

僕と恋人はスターバックスで珈琲を飲みながら本を読んでいた。僕は夏目漱石を読み、彼女は村上春樹を読んでいた。「それから」は冗長な小説だった。「1Q84」も恐らくそうであろうと思う。彼女がふと顔を上げた
「あなたの書いたもの、最近面白くない」
僕は言った
「それは分かってる」
「申し訳ないけれど……」と彼女が続ける。
「分かってる」
「分かってるんだ」
僕は頷いた。そしてまた本に目を落とした。
「お手洗い行ってくるわ」彼女が席を立った。
僕は頷いて再び本に目を落とした。
彼女はしばらく帰ってこなかった。
この出来事を記録したらよかろうと思った。
そしていまこれを書き続けている。
彼女はすでに帰ってきていて村上春樹の「1Q84」を読んでいる。僕はいまひたすら煙草が吸いたい。マルボロが吸いたい。
しかし僕はまだ珈琲を飲みながら夏目漱石の「それから」を読み続けるであろう。
分かってるんだ。

2022年10月19日公開

© 2022 猫が眠る

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