父殺しのPirate

島津 耕造

小説

7,750文字

たえず時間は流れ続けている。

「ああ、ごめん。ビールを。」
「え?」
そう十年前に言っていたおじいさんから、ひさしぶりに手がみがとどいた。内容はこうだだった。──裸になってとびだすと、例えば七千万の桁は硬質的な針葉樹林を歩くようでした。銀河系つきぬけたって同じこと女が否と言えばそれまで──これだけ。
たしかに彼はある種の表現に対しては容赦しなかった。
おじいさんと孫は十年ぶりに再会した。二人で街を歩き回って、孫が「疲れた、帰ろう、おじいさん」と言うと、おじいさんは「だめ、だめ。都見物はまだ終わりじゃないよ。」と言って、十年ぶりに再会した孫を引っ張った。時が停まったように、広場の噴水は停まっていた。おじいさんにしてみれば、大声をあげて嘲り笑いだしたいくらいであろう。
二三週間はそれなりに過ぎた。そのうち秋がだんだん深くなった。おじいさんのその手紙の真意はそこにあるのだろう。彼は何かを欲していた──要するに「物言えば……」ということだろう──孫の父親が耕作に出る支度を整えている所へ、後ろめたさを吸って吐くことと祭りに笑顔で参加すること。
おじいさんは若くして大金持ちになった。自分の設計した建築を実現することができるようになったんだ。彼自身は、剥き出しの確固たる厳格さの象徴のように思われる、高潔な額と獰猛な青い瞳を持っており、そのころから孫の父親との仲がぎくしゃくしはじめた。孫の母親は家を出て行く孫に言った、「死にたくなったら電話して」。だが客観性には憎しみが伴っている。だから孫と母親はもう母子一体には戻れない、これを去勢と言う。
静かに、静かに、人々は飢えていく。

「冷汗、冷汗。」
と言っておじいさんが笑っただけで風景と孫の頭の中が混じり合う。
おじいさんは言った、「だれが、お前を指導者や裁判官にしたのか。」
孫の母親は、彼が手際よくはさみで冷蔵庫を切るのを見守りながら、彼が子どもの時、裁判所で真っ赤な裁判官の正装を着ているのを想像するか、公的で重要な仕事の事業の過酷な危機にあたって指揮していることを想像した。
孫は答えた、「えぇと、大丈夫? 呼吸してる? 顔、真っ赤だけど」
孫はおじいさんの顔をしげしげと眺めた。何かあかがね色にきらめく材質でできているようだった。
今や彼は通りに出ていた、50セントの硬貨を握って。硬貨は汗で濡れていた。孫は自殺するつもりが従兄を殺してしまった。途方に暮れて孫は姉に問うた。「姉さんどうします」「どうしますって妾(あたし)女だからどうして好いか解らないわ。リュウ、あなた自分が赤ん坊だってわかったでしょう?やっぱりあなた赤ん坊なのよ。」孫は姉の首にかけてた手を外し、姉の口に溜まっていた白い泡を舌ですくった。姉が孫の服を脱がし抱きしめる。
午後になって金属製の棺が運ばれてきた。そこには明らかに獣の臭跡が残っている。金や獅子の頭で飾られたこの立派な棺へ従兄を移す仕事は、棺といっしょにやってきた男が専門家を気どって──彼は髭を剃ってなくて泥だらけだった──自分ひとりでやろうとした。この男は依頼された葬儀屋と縁続きになる男で
「私はあんたがたにいつも言った!いつも言ってたんだ!」と絶えず怒鳴っていた。
短くフロックコートふうの黒い服を着こみ、神は言った「あなたは待ち、見る、なぜなら私は世界がだらしなさと不平によって用無しにされるのを見てきたのだから」、無骨な手に結婚指輪をはめていたが、彼の声はそこでやんだ、全くあたかもレコードを聴いていない何者かの手によって、その針がレコードから退けられたときのように。その黄色い指輪はいわば指の肉の中に食いこみ、肉の中に埋まってしまっていた。どこにライトがあるのか教えておくれ……この男のフロックコートからは死臭が漂ってくるような気がしたが、むろんこれは思いすごしだった。孫はとくにこの専門家ぶった男が熱をおびた眼で彼らを見つめ、唇を震わせているのに気がついていた。それだけに自分の世界とはあまりにも成立形態の異なるオウム真理教の世界に対して、烈しく相容れないものを感じることになるのかもしれない。「それは恐怖ではないのだ」と孫は言う。しかし何であるにせよ彼がそれを完全に取り除くにはもう少し時間がかかりそうである。姉はそういう印象を受けた。こうしておじいさんは姉から孫について何もかもをその夕べには聞いてしまった。
「麻原は僕と同年代なんです。だからというのでもないけれど、ほんとうに腹が立ちます」
孫はかつて姉にそう言ったことがあったらしい。
姉はサリンの入ったポリ袋を包むための新聞を手に入れた。「聖教新聞」と「赤旗」である。「どこでも買える普通の新聞じゃない方が面白いでしょう」。姉特有のユーモア精神。何物も姉を動かすことはできなかっただろう。姉は電車に乗り込む前にマスクをつけた。捜索隊が来て、姉を郵便受けの前で死んでいるのを見つけたとき、よくできた軍人の模型だと思わないだろうか?列車のナンバーはA725Kだった。車内に女性や子供の姿を見かけて、姉の心はことのほか揺れた。姉は彼らの手に渡るのを酷く憎んだ、そして立ち止まって彼らを見下した。「今ここでサリンを撒けば、この自分の右斜め前にいる女性──申し分なく素直で純粋であり、人間の弱さを見てわずかにしかめっ面をしているのだが──は確実に死んでしまうだろう。画廊を必ず一人ではなく歩いて行ける者もいるだろう、途中でおりてくれればいいのだが」と姉は思った。 しかしここまで来ればもうやらないわけにはいかなかった。これは法のための戦いなのだ。弱い心を出して、自分には負けてはならない。
電車が新御茶ノ水駅に近づいたとき、──「しかし」と彼女の祖父は言った。そして、応接間の窓の前で立ち止まり、「恐らく晴れないだろう」──彼女はサリンの袋を足下に落とし、腹を決めて傘の先を突き刺した。すでに私的な暗号と秘密の言語を持っているのであった。手ごたえがあった。「弾力のあるブチュッとした手応え」だった。そのあと続いて姉は女の腕を掴み体を振り回すようにして抱きついた。女の薄いブラウスを裂く。悲鳴が電車の音より高く響く。乗客が他の車両に逃げる。女は本を落としハンドバッグの中身を床にばら撒く。姉はいやな顔をしてそっちを見て、おなか空いたわ、と眠そうな目で呟く。それから何度か突いたが、このような騒然とした場所での食事をあなたはどんなに嫌うべきか。何度だったか記憶はない。結局、二つあったサリン袋のうち穴が開いていたのはひとつだけで、孫に言った。「リュウ、ピザ食べたくない?アンチョビのピザ、タバスコたっぷりかけてさ、ヒリヒリするようなやつ食べたくない?」あとのひとつは手つかずのままになっていた。
これと時を同じくして、まっ暗な荒れ野の闇から形をなして現れたあの影のおじいさんが、姉のにおいをつきとめ、憂いの沼への道をたどりはじめた。この追跡をさまたげることとは、この国のいかなるものにもできなかっただろう。姉に関するあらゆることが些末なことだ。おじいさんの手と目が自動的に動き、役目のない頭が退屈を紛らわそうと延々、問いを重ねる。
影のおじいさんが姉との距離感を掴みきれないのは、孫と姉のどちらかが安定していないのだろう。「主よ、どうしたらよいでしょうか」とおじいさんが言うと、主は、「立ち上がって世界一古くから人々が住んでいる場所ダマスコへ行け。しなければならないことは、すべてそこで知らされる」と言った。おじいさんは、その光の輝きのために目が見えなくなっていたので、家族に手を引かれてダマスコ行の列車に向かった。
一行の歩みに戻ってきた姉を見て、父親が大声をあげた。こいつもうだめだ、とおじいさんが首を振る。母親は見た瞬間悲鳴をあげ目をつぶった。姉の左手首がパックリ割れて血が土に溢れ出ている。父親は立ち上がって、孫と姉は共同で多くのものを手に入れる、その孫に、リュウ、救急車呼んで来いよ、と叫ぶ。孫は無視する。
孫とおじいさん一行はさっとダマスコ行の汽車に乗った。汽車はまもなく走り出した。土の匂い、草の匂い、水の匂いが、さっと流れ込んできた。すると、開け放たれた汽車の窓から、半身を乗りだした姉が、切ってない方の腕を勢いよく、左右に振って、その手はその手のなかでだんだん小さくなる、蜜柑を五つ六つほど、暮れなずむ空に、投げ上げたのである。暮色を帯びてひろがる風景と、空に舞う、数個の蜜柑の、暖かな日に染められた鮮やかな色と。──蜜柑は、空に舞って、瞬く間もなく後ろへ飛び去った。起きたことは、ただ、それだけである。が、不思議に朗らかな心もちが、昂然と孫とおじいさんの心に湧き上がってきたのである。
三日目には、優しい救いの手が差伸べられた。澄みきった秋の朝、日が照ってすがすがしく車窓から見える草原には銀灰色のヴェールがかかり、おじいさんと孫は梯子の上の窓のところまでいって召使にうるさく言ったり罪をなすりつけたりする、清浄な空には太陽と欠けはじめた月が同じくらいの高さに懸っていた。おじいさんと孫はこの美しい日に敬意を表して、口の中でオウムのマントラ何度も繰り返し唱えた。姉が孫にだけ笑う親しげな笑いかたをして、
「忙しかったでしょう。」
と、また、囁くような小さな声で言った。おじいさんと孫は平和が同居する輝かしい島に着くだろう、彼女は思った、その顔は、活き活きとして、むしろ輝いているように見えた。
おじいさんに逢えてうれしかったのだろう、と孫は思った。
「いいえ。」
孫もすこし浮き浮きした気分になって、にっこり笑った。
「雨のようね」と姉が聞いた。
「ええ」
そうして、これが、姉との最後の話であった。
それから、三時間ばかりして姉は亡くなったのだ。秋のしずかな黄昏、父親に脈をとられて、おじいさんと孫と、母親の、四人の肉親の肉親に見守られて、日本で最後の貴婦人だった美しい姉が(一年に六回か八回は土曜日に町に行ったけれども。彼女は馬車に乗って、特注のドレスを着てそうして剥き出しの足を荷馬車の床に投げ出した)。
死顔は、ほとんど、変わらなかった。従兄の時は──さあ見せて見ろ、その結び目がお前に作れるかを──さっと、顔の色が変わったけれども、姉の顔の色は、ちっとも変わらずに、呼吸だけが絶えた。その呼吸が絶えたのも、いつと、はっきりわからないくらいであった。顔のむくみも、前日あたりからとれていて、「喫茶店でチェスをしてるんだ」、頬が蝋のようにすべすべして、薄い唇が幽かにゆがんで微笑みを含んでいるようにも見えて、生きている姉よりも、なまめかしかった。孫はピエタのマリヤに似ていると思った。
さて、と、おじいさんは咳払いをした、「世界は差異でできている。同一性よりも差異の方が先だ。要するに同一性は《異なるもの》の回りをまわっているということ、これこそが差異にそれ本来の概念の可能性を開いてやるコペルニクス的転回、すなわち孫はベッドを見下ろして、そこに姉を見つけた、「冷たい僕のからだで足の先だけが熱を持っている。時々その熱がゆっくりと頭まで昇ってくる。果肉を剥がした桃の種のような熱の核は、昇ってくる時、心臓や胃や肺や声帯や歯茎に引っ掛かる」この本性なのであって、この転回からすれば、差異は、あらかじめ同一的なものとして定立された概念一般の支配下にとどまっているわけがないのである。」
汽車がある田舎で燃料を補給するということで留まった。そこで孫とおじいさんは、父親と母親と一緒に姉をすいか畑に埋葬することにした。すいかはみな収穫されることなく熟れ切って腐っていた。すいか畑の先、一方だけ視界が開けた先には、町と、空と、海が見える。ひつじ雲が水平線から湧いていた。海は陽差しを照り返して、アルミホイルをしわくちゃにしたみたいに、細かな光の粒が無限に散っていた。午後だった。
孫はすいか畑ではだかの姉の身体を裏返して、あおむけにした。股の付け根の、黒いものが見えた。孫はおじいさんたちに背中を向けて、ゆっくりと立ち上がる。姉の顔が、孫の下腹についた。孫は腰を前後に小さく振る。姉は目をつぶっていた。頬すぼめ、苦しそうに見えた。それでも孫は腰を振るのをやめない。
孫は姉を後ろ向きにさせた。女の尻を高く持ち上げる。孫は地面に膝をつき、姉の尻ににじり寄って、腰を下からあてがうようにして……屍が、びくん、と跳ねた。孫は姉の腰を両手でつかみ膝の位置を少しずらして、それから、ゆっくりと腰を前後に振り始めた。
孫の腰の動きが激しくなった。孫の肩から背中にかけての筋肉がこぶのように盛り上がり、不意に、ゆるんだ。孫は幼少期から、感覚の紡ぎ車におけるいかなる感覚も深い悲しみや喜びの輝きをその瞬間の上に結晶化し釘付けにする力を持っている。
姉の肢体はすいか畑に伸びる。
孫はゆっくりと息をついて、姉から離れた。立ち上がり、脱ぎ捨てたパンツを拾うしぐさは、おじいさんたちにはなんだか怒っているようにも見えた。孫は服を着ると、農道に停めてあったシトロエン・2CVに向かって歩いて行った。彼が楽しみにしていた驚くべき奇蹟は──長年にもわたるかのように思われた──奇蹟は、夜の暗闇と朝の航海のあとに手の届くところまで来ていたかのように。果たして、思惑通りキーがついていた。
「乗って」とおじいさんに命じる。
「これに?」
「そう、乗るの」
「ひとの車じゃないか」
「いいから、乗るんだよ!」
孫はおじいさんの手を掴み、道の傍らに座って、2CVが坂道を彼らの方に向かって上ってくるのを見ていた、急いでなかに押しこんでドアを閉め、車を回って運転席に滑り込んだ。またしても歯が鳴っている。
「また車を盗んだのか!」父親がむこうから大声を出す。
孫はローギアに入れたときに顔をしかめた。腕に熊手の歯が食いこんだような感じだ。
「刑務所に入れられちゃうんじゃないか」とおじいさんがぼやいた。
孫はアクセルを踏み、道路に乗りだした。最初に現れた交差点を曲がり、曲がりくねった細道に2CVを乗りいれた。遠ざかる家々の屋根の上には、丸い緑の山々が浮かび、町はずれで2CVを止めるようにお願いして、2CVから降り歩いて行った。何故乗らずに歩いていくのか、そのわけをおじいさんに話すつもりはなかった。父親はそれをなだらかな通りと舗装された歩道のためと考えた。しかし孫にとり、それは、歩いている時に会ったりすれ違ったりする人々は彼もまた同じ町に住んでいるだろうと思うと考えたからである。地平線を遮った。いい、と孫は思った。これでいいんだ……。
ある夜、窓を開けたままで車の中で眠っていると、前方の家から、暖かい、いい声で女の人が歌を歌っているのが聞こえてきた。
「ああ、なんてきれいな声だろう!」孫は思った。ある秘めたる自惚れを彼自身の判断力の正確さに抱いているのであった「ぼくのためにうたっているのだったらなあ!」
声はうたいはじめた。

さあ 大いなる君、また小さくおなり!
子どもにかえって 入っていらっしゃい!
いつまでも 戸口の外に立っていないで、
待ってるお客さまは、あなたなんだから!
だれもきてくれなくても
そうつまらないとはおもわなくなった
ひとりでに張りあいのわくのをたのしみながら
なんにもほしくないようなこのきもちをつづけてゆきたい
みんなみんな あなたのために
ずうっと昔から
用意して待っていたのよ。

孫は、もうどうしようもなくなりその声にひきよせられていった。手押し車、芝刈り機、ポプラの木々のざわめき、雨の直前に白くなる葉、カーカー鳴ミヤマガラス、トントンと音をたてる箒、サラサラと音をたてるドレス──そう云ったものすべてが頭の中で彩られ、特別なものであるために、彼はすでに私的な暗号と秘密の言語を持っているのであった。そして、うたっている人はとても親切な人にちがいないと思い、ドアをたたいた。声が答えた。
「お入り、お入り、わたしのかわいいぼうや!」
ドアを開けると、そこは居心地の良さそうなあまり大きくない部屋で、真ん中に丸いテーブルがあり、孫の知らない色とりどりの果物をいっぱい盛った鉢やかごがいくつものっていた。テーブルの前に女の人が一人座っていた。
その人を一目見たとたん、孫は腕を広げてかけより、「姉さん!姉さん!」と叫びたい衝動にかられた。でもぐっとがまんした。姉さんは死んじゃったんだ。この街にいるはずがない……。何とまあ馬鹿な人生四十年思い出したくないことばかり。彼は真実でないことを受け入れることができなかった。
「ああ、パーキングブレーキを忘れていた」孫はそう言うと家を出た。雨が降っていた。夜の雨の音はさびしい胸にともしびのようにともる。
孫は燃えたマッチを車の中に投げ込んでおじいさんとともに2CVが燃えていくのを見ながら

つひに
われひとりゆくなり
なくべからざるしんじつなり
赤い
まるいような花をいくつか考えて
まちこがれている

と、うたった。
湖畔で車を停めておじいさんと一緒に小便をしたことを思い出した。
二人の小便が、きれいな湖めがけて、放物線を描く様は、悪くなかった。孫とおじいさんは秘密を共有し合った小さな男の子同士のように、笑いながら、互いの小便の勢いを称え合ったのだった。
孫は遠のきかけた燃え盛る車に引き返す。おじいさんがあらわれては消える。せわしなく2CVの車内の四方に散る。それがいつの日のおじいさんか分からない。十年前のおじいさんかもしれない。もとは確かな年代をもっていた瞬間なのだろうがすっかりそれは剥がれおちていた。自分が引きつれていたらしい記憶は、車が失せるのと同時に消えてゆくのかもしれなかった。忘れまい、としてどこかでおじいさんを記憶にしばりつけている。生きているもののほうが死者の足をひっぱっていた。それをやめてすっかり忘れてしまってよいのかもしれなかった。
燃え静まり燻った車からちりちりと音がする。孫は父親のことを考えた──立ち上がり、今にも、ナイフのように曲がり、一枚の刃のように尖り、嫌味っぽくにやりと笑い、息子が落胆することへの愉悦を持つだけでなく、妻にも嘲笑を浴びせた──こうして流れつづける音の一音一音はたしかに減衰して消滅しているというのに、おわりもなくまたはじまりもないように、いつまでも聞こえる。
ざわめきたつような、じずもるような、相矛盾する心地のまま、孫は姉に似た女の熱であたためられ、入眠した。いよいよまったく二人きりとなっていた。しかし二人きりのことだとはいえ、このあとも孫は姉に似た女に色々残酷話を喋らせながら孫の下半身に手の動きをさせることもあれば「あなたが自殺してしまったら、私は悲しい」。語りは生々しすぎてたじろくこともあるけれど、内容が酸鼻なものであればあるだけ女は人形のように完全に受け身のままとなり、そういうときこそ分泌液を多く出したりして身体感覚はふんだんに研ぎ澄まされるようで、そんな自意識喪失ぶりが孫にはたまらなく愛おしい。
何らかの対象aに憧れては裏切られるということを繰り返すことによって人生は続いていく。

2022年7月16日公開

© 2022 島津 耕造

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