軽い夕食のあと、マックスは立ち上がって博貴の手を取った。
「ほら立って。踊ろう」
マックスが住むこの部屋は、夏季出張中の留守番と猫の世話を彼に任せた大学教員のものである。床の上に乱雑に積まれた研究書のあいだから年老いた黒猫が博貴の顔をじっと見ている。部屋のステレオからはゆっくりとしたブルースが小さな音量で流れている。差し出された華奢な手首には包帯が巻かれていた。博貴は反射的に手を引っ込め、首を横に振った。
「ごめん。踊りかたとか知らないし」
「踊りかたなんて関係ない。音楽に合わせて体を動かせばいいだけ」
マックスはリズミカルに腰を振りながら博貴の肩に手を置いた。博貴はその手をすぐさま振り払い、視線を落とした。
「……ムリ」
固辞する博貴を見たマックスは、肩をすくめて台所に食後のコーヒーを準備しに行った。
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