雨あがりの森は湿り気を含んでむせかえるようだった。足を踏み出すたびに苔に覆われたぬかるみの中に沈んでいきそうになる。中身の詰まったリュックサックがマヤの両肩に食い込んだ。
しばらく歩くと、手前の木の枝に白いビニール袋がぶら下がっているのが見えた。薄暗い森の中でビニールの白さは格段目を引いた。固く縛った口の部分にはハエが何匹もたかっている。袋の中身は黒々として、濁った水に浸っているようだった。
「触っちゃダメだよ、汚いから」
唐突に聞こえてきた男の声に、マヤは驚いて振り返った。Tシャツを着た背の高い長髪の青年が大股で近づいてきた。
「猫の死骸だよ。麓の村では、死んだ猫を地面に触れさせると魂が道に迷ってあの世にたどりつけないって言われていてね。ただの古い迷信なんだけど、こうやって実際に吊るしてあるのはボクもはじめて見た」そう言って彼は拾った小枝で物珍しそうに袋をつついた。
神宮寺と名乗るその青年は東京から来た写真家だった。蝶の写真を撮りに毎年この森を訪れるのだという。
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