昼休みに職場近くのそば屋に入ると、悪魔がてびちそばを食べていた。
「あいっ、政彦くんね? 久しぶりだねー!」
悪魔と会うのは高校生のころ以来である。酔いつぶれた親父を迎えに行ったスナックで、背中を丸めてカウンター席に腰かけてウイスキーをちびちび飲んでいたのをときどき目にしたことがある。何度か言葉は交わしたものの、よく名前まで憶えていたものだ。
「ああ、はい。ご無沙汰してます」
「政吉さん、元気にしてる?」と、悪魔は親父の名前を口にした。お袋が死んで以来、親父は今でも一人で暮らしている。家を建てたときに団地を引き払って同居しないかと勧めたのだが、一人のほうが気楽でいいと言って聞かなかった。親父の部屋にするつもりで作った和室は物置代わりに使っている。
「ええ、まあ。相変わらず酒とギャンブルが好きなフリムンですよ」
「ははは、ちゃんと顔見せてあげてるね?」
「いや、それもなかなか」
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