「化け物と呼びたければ呼ぶがいい。お前たちに何と言われようと知ったことか!」
そう叫んだ直後、音楽教師は胸に散弾銃の弾を受けて絶命した。
私の村には奇人狩りの風習が残っている。村人はよそ者を注意深く観察し、奇人かどうかを確かめる。誰かの報告を受けて奇人が入り込んでいると判断が下ると、男衆を集めて対象となる人物を排除する。これは村の秩序を保ち、それぞれの家が代々守ってきた先祖の位牌が汚れた血筋に渡らないようにするための古い伝統である。村の中学校に赴任してきた音楽教師が奇人狩りの標的になったのは、彼が秋休みに男性の恋人を呼び寄せたところを目撃されたためである。村に報告したのは彼の生徒の一人だった。
生きかたの違う人間や、宗教や価値観が異なる相手を村は奇人のレッテルを貼って排除してきた。誰もが血なまぐさい秘密を共有し、互いの言動を監視しあう。私は高校を卒業したらすぐにオーストラリアに留学することを心に決めて準備を進めていた。両親には反対されたが、もちろん私に躊躇は一切なかった。一刻も早くこの醜悪な村から逃げ出したかったのだ。
シドニーの語学学校で私はショーンに出会った。ショーンは英語名で中国語の名前は英雄。上海出身である。上級クラスに配属されたアジア人は私とショーンの二人だけだったので、自然と一緒におしゃべりをしたりチャイナタウンに出かけて食事したりする仲になった。週末には映画を観に行った。古い作品や外国の作品を専門に上映する映画館である。まだ英語圏の映画の内容が完璧に聞き取れない私に気を遣ってか、英語字幕がつくアジアやヨーロッパの映画や日本映画によく誘ってくれた。
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