控室で、私は親方にせかされつつ赤装束を着込んだ。
「良いか、お前はニコニコして突っ立ってりゃ良いんだ」
「はい」
私は赤装束を身に付け、白い付け髭を顔に貼り、そして大きな袋を持って鏡の前に立った。
「お前は白人だからサンタの雰囲気が良く出る」
「ハハハ」
「黒人だったら、なんだ?ブラックサンタか?」
「……」
「まあ、良いや、よし、行って来い、近付くガキにちゃんと菓子をやるんだぞ」
親方が私の背中をぐいと押し、通用口からフロアに出した。
『本日もユニオンモールをご利用頂きありがとうございます……ただいまの時間より……グリーンランドから来たサンタさんと、お子様の、仲良し撮影会を開催いたします……』
私はフロア中央の、一段高く作られた撮影台に据えられた大きな椅子に座った。大きな袋を横に置く。放送を聞き付け、早速家族連れどもが大勢集まってきた。
「ほら、サンタさんだよー」
「良かったねー、写真とってもらおうねー」
「はい、はい、こちらからお並び下さい」
私は無言でニコニコしながら首をぶんぶん立てに振る。横の店員が誘導を始めた。
「はい、じゃあそこの女の子から、どうぞ」
その女の子と言うのも、10歳を超えてディズニープリンセスの顔がデカく編まれたセーターを来ている、太った女児だった。
「ふひひ、ひい、サンタさぁん、いひ」
「精子ー!良いぞ!良いぞー!」
「あの、お客様、まずお写真は一枚こちらでお撮りしますので、その後で」
「あ、すんません」
私の膝の上に座ったセイコと言う女児は見た目通り重かった。しかしその両親らしき人物もかなり太っている。私も見かけ上太っている。
「いひ、いひひ、サンタさぁん」
「……」
「さーセイコちゃん、サンタさんに、ほら、そっとサンタさんの耳にお願いしてみましょう」
店員が促すと、セイコは厚ぼったい顔を近付けて来た。
「あ、あの、あのね……私ねえ、シルバニアファミリーの『明りが灯る大きなラブホテル』が欲しいのォ」
最近やたらCMで流している擬人化ウサギのおもちゃだ。別に私がここでそれを渡すのではないが、設定上私は無言でグングン頷いた。そして頭を撫でてやりながら、一緒に写真を撮った。店員の持つポラロイドカメラからジーッと写真が出てくる。写真を一瞬見ると、セイコの事はどうでも良いが、私のサンタ姿は中々サマになっていた。
「ホラッ、精子!今度はお父さんが写真を撮るからな!」
「お客様、なるべくお早めに……」
「分かってる」
父親らしき人物は、ゴテゴテしたカメラで素直に一枚だけ写真を撮った。セイコは降りて、私から小さな菓子詰を貰うと、ニタニタ笑いながら出て行った。
「さあ次はそこの男の子」
季節外れの半袖で野球帽を被った、頭の悪そうな少年だ。
「さあ、サンタさんに耳元でお願いをしてみましょう」
しかしこのガキは耳元でと言っているにもかかわらず、私の顔の近くで大声を出した。
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