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したためる(恋文)

曾根崎十三

古賀コン11「教師の含蓄」 今回はお題を見て何を書くか考える部分も含めて1時間で書きました。最近の筆の調子的に無理な気もしてけど、なんだか今日は書けそうな気がしました。

小説

2,424文字

ねぇ、どうしたら私の気持ち、わかってくれますか。「わかったわかった」なんて二つ返事はやめてちょうだいな。先生ってばいつもわかったふり。わかったふりではぐらかすの。全然わかってない。私が一緒に帰りましょうと言っても、連絡先を教えてほしいと言っても、あわよくば私とデートして欲しいと言っても、先生は否定しない。断らない。「わかったわかった」って二つ返事で、うやむやにして、結局私の願いなんてひとつも叶えてくれないの。それだどれだけ残酷なことかわかるかしら。そう言われても先生、あなたって人は「わかったわかった」って仰るんでしょうね。はっきりと断ってくれる人の方が随分と優しいものだわ。私を生殺しにして、うっすらとした期待を打ち消さず、生かさず殺さず、私を先生に囚われたままにする。ひどい人ね。でも嫌いになれない。なんでかしら。先生のこと、悪い大人だって、わかってるのよ。わかってる。先生にその気がないことくらい。のらりくらりとやりすごして、私が自分から去っていくのを待っている。悪者になりたくないだけ。傷つけたくないんでしょう? 私のこと。でもね、先生、私、もう傷ついてるの。あなたの残酷な仕打ちに、私毎日傷ついてる。だからとっくに先生、あなたは悪い人ね。悪い人。先生って大人ぶってるだけでしょう? 誠実な大人はそんなことしないわ。私わかるもの。でも、案外大人なんてみんな子供なのかもしれないわ。私はまだ子供だから分からないだけで、私の父も母も、あまり誠実ではないし、親戚だって、先生以外の学校の大人たちだって、私はあまり誠実だとは思えない。そう考えたら、誠実な大人なんていやしない。私の方が大人に幻想を抱いていただけだったのね。これはこれは。失礼しました。先生が誠実な大人でなかったとしても、それは一般的なことで何も恥ずべきことではないの。皆が殺人をしている世界なら殺人を咎められたりしないように、情けない大人しかいないこの世の中では、不誠実で悪い大人の先生だって恥ずかしくない。ああ、でも先生が恥ずかしい人でも恥ずかしい人でなくっても、私は先生を愛してるわ。愛してる。いくら口の中で呟いて、転がしてみても、こうして書いてみても、何度思い浮かべても、薄っぺらくなってしまうこの言葉。胸の奥にあるうちにはとっても重たくて濃くておどろどろしいのに、私の体の外に放った瞬間に軽薄になってしまう。なぜなのかしら。不思議なものね。先生は国語の先生だからわかるかしら。それとも保健体育の先生の方が詳しいかしら。でも、私はこんなこと、先生にしか聞かないし、聞きたいとは思わないの。そう決めてるから。私、先生のこと好きなの、って何度も言ってる。愛してる、だって言ってる。どうしたらこの重さが、本当の重さのまま伝わるのかしら、と思って。闇雲に私は愛を伝えようとするのだけど、愛なんて言葉にした瞬間嘘くさくなってしまうの。私が先生に何度も好きだと言うのは、先生がわかってくれないからというのもあるけれど、この嘘くささを拭いたくて、この言葉に少しでも重みをつけたくて、何度も重ね付けするみたいに、何度も言ってしまうの。先生にはこんなことお見通しかしら。それとも、本当にぜんぜんわかってしないのかしら。でもね、私、知ってるの。先生の「わかったわかった」は重いの。私の言葉みたいに軽くないの。私はいくら頑張っても軽々しくなってしまうのに、先生は違う。ずるい。これってきっと生きてきた年数の違いが生み出してるものなんだわ。私だって早く大人になれたら、もっときっと重い言葉を伝えられるのに。それまで待っててくれませんか。これだってきっと先生は「わかったわかった」って言うのでしょう。嘘みたいな本気みたいな。一度だって私との約束を守ってくれたことのない先生。一緒に帰りましょう、と言って「わかったわかった」と言われたから私は待っていたけれど、先生はいつの間にか帰っていた。あの時私がどれどほかなしかったか先生にはわかるかしら。きっとわからないでしょう。先生は私じゃないもの。でも、私だって先生の「わかったわかった」に含まれている全てを理解することはできない。だって私も先生じゃないから。先生、せんせい。私、先生のこと、本当に好きなんですよ。教室をぐるりと見渡す視線とか、チョークを持つ指先とか、そんなただ何事もない先生のことも全部好きなの。あの視線で見られたいし、あの指で触れられたいの。先生は先生だから「わかったわかった」って言うのだけど。先生だから仕方ない、先生だからそう言うしかないんだって、私に思わせてる。生徒との関係性にヒビを入れるわけにもいかないから、うやむやにして、私が重いままの想いを伝えようと足掻いているのを横目に「わかったわかった」って。先生、先生。先生って私の視線に気付いてるでしょう? 私、知ってるんです。私がじっとずっと熱っぽい視線を送り続けていることに気付いていてそれを無視して「わかったわかった」なんて言ってる。本当に先生って悪い人。私の気持ちを知っていて、わかっていて、でも応えるつもりがないんでしょう? そういう「わかったわかった」なんでしょう? でも、本当は私のことをまんざらでもないと思っているけれど、先生は先生だからそうするしかないんだって、そんな期待も否定しないで、ただ私の存在を許し続ける「わかったわかった」なんでしょう? ほんとうに悪い大人。情けない、ずるい大人。わからないふりしてるだけで、私の気持ち、本当はわかってるんでしょう? と思わせるひどい人。でも、私はそれが嫌ではないのです。先生。先生の「わかったわかった」は世界一なんです。世界一大嫌いで大好きで優しくて残酷であたたかくて冷たくて柔らかく包み込むような恐ろしく突き放すようなそれでいて私にとって縋り付きたくなる涙が出るほど愛おしい「わかったわかった」を、私は今日も待ってしまっています。

© 2026 曾根崎十三 ( 2026年6月27日公開

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