2016年7月3日(日)、富山県富山市にある高志の国文学館が累計入館者数50万人を達成した。開館以来わずか4年での大台到達であり、手本にしたという東京・世田谷文学館の9年を大幅に上回るペースだ。文学館としては異例のスピード記録に、石井隆一富山県知事も「多くの県民や県外の方のおかげだ」と感謝のコメントを出している。

高志の国文学館は、旧知事公館を改修する形でオープンした文学館だ。広い敷地をゆったりと使った施設は、従来の文学館にありがちだった「所狭しと資料を詰め込んでいる」「取っつきにくい」というイメージを覆すものとして話題を集めてきた。デジタル技術を活用したディスプレイ、家族向けスペースの存在、レストランや庭園が併設されていることなど、その趣きはさながら現代美術館のようだ。同じ北陸地方で金沢21世紀美術館が大成功したことも念頭にあったのかもしれない。

文学館の既成概念を打ち砕くようなコンセプトは、展示内容にも如実に表れている。常設展示では富山ゆかりの作家がピックアップされているが、源氏鶏太や辺見じゅんなどの文筆家だけでなく、藤子・F・不二雄や藤子不二雄Aといった漫画家の経歴や作品も紹介されている。特別企画も文学館らしからぬものが多く、万葉集にちなんだフォトコンテストの実施や夏休みの読書感想文サポート、アニメの制作現場に密着した企画展などが開催されている。旧来の文学ファンからするとにわかには信じがたい光景かもしれない。

だが、「文学」の定義は永久不変のものではない。テクノロジーの進歩とともに表現様式が多様化する中で、その範疇も拡大され続けてきたはずだ。旧態依然とした文学館よりも、幅広い物語表現を積極的に扱うことこそが、むしろ現代の文学館としてのあるべき姿勢ともいえるのではないだろうか。

大都市圏ではないにもかかわらずこれだけの集客力があるのは、そうした型に囚われない試みが奏功したことの何よりの証拠だろう。今後も守りに入ることなく、100万人、200万人と今以上のペースで来館者を増やしていくことに期待したい。