復讐は何も生まないんじゃなくて副産物が多すぎる

名探偵破滅派『龍の墓』応募作品

乙野二郎

エセー

1,834文字

名探偵破滅派の課題図書『龍の墓』の推理です。
以前の課題図書でもあった見立て殺人に着目したアプローチ。

本作は連続見立て殺人となっている。

見立て殺人については、拙作『ミステリ展開・構成分類集』にも簡単にまとめているところ、以前読んだ古野まほろ『ぐるりよざ殺人事件 セーラー服と黙示録』にも詳しい考察がされている。

両者をふまえて、見立て殺人についてまとめると、

①見立て殺人は単独でも成立するが、連続殺人として行われることが多く、その要素も考慮すべき

②その目的の一つに、演出のため(恐怖をあおるため)がある。これは作中の関係者に対してのものもあれば、読者に対するメタ的なものもある

③他の目的として、トリックのためのものがある

④それ以外の目的 見立て殺人をすること自体が目的となっているなど
ということになる。

①は前提。②については本作では薄い。④も同様に、演出が薄く、そこまで強い目的は感じられない。というわけで、本作は③のトリックのための見立てであろう。

まず、ゲーム内の事件の方だが、強烈に魔法による殺人が示唆されており、どうもくさい。しかも、中世ヨーロッパ風の世界というが何でもありな感じの世界観である。

魔法使いとなりうる人物はたびたび否定されていることから、魔法つながりはダミーで、実際は便利なアイテムによる殺人ではなかろうか。

ここで注目はサブクエストで出てきた「水で瞬時に固まる粘土」である。壊れた壺が直せるくらいなので、瞬間接着剤以上のブツであろう。これで、領主の部屋の隠し通路の石を使用後に固定したのである。えぐれた土の箇所はその作業のためのスペースであろう。第三の殺人は隠し通路から侵入&脱出しただけなのである。

また、サブクエストのアイテムといえば、元鍛冶屋のじいさんがもとめたカグツチ石がある。これが石炭程度のものであればなかなか難しいが、水で瞬時に固まる粘土と同等にレアだとする石ころ程度の大きさでもすごい高火力なのかもしれない。第一の殺人は殺害後に死体をこれで燃やして燃焼魔法のように見せかけたのである。

第二の殺人はそもそも地味だ。見立て+犯行に使われた凶器が発見されていないがために、光を固形化して投擲する魔法によるものとされているが、見えない凶器か、あるは血糊を簡単に除去できるアイテムがあればクリアできる。犯人はそれを所持していただけなのである。クリスタルの一角獣の死体は日の光を浴びると消えてしまう(「氷のようだ」という描写もある)ので、一角獣の角で殺害し(腹に突き刺される描写がある)、日の光で溶かして証拠隠滅したのだろう。

では、犯人は誰か。

ゲーム内での連続殺人事件と現実での連続殺人事件。容疑者候補が3人ずつで属性もなんとなくリンクしているように思える。

つまり、

山木とエリック

浜部とエミリア

吉村とリゴール

である。

ゲームの方では怪しいのはエミリアである。怪しいというよりはあまりフォーカス当たっておらず、これで犯人でないとこのキャラなんのためにいたんだ??ということになる。

彼女の旅の目的は復讐となっており、本書のあちこちで要素となっている「復讐」つながりで怪しい。もっとも、復讐の相手は父の同僚の持ち逃げ犯であり、三人も殺めるのはおかしいようにも思える。最初の方のエピソードで出てきた速水の復讐も雑なので、エミリアも雑な復讐を手当たり次第にしているのかもしれない。

現実の事件でも怪しいのはエミリアに対応する浜部である。単独では印象が弱い彼女であるが、「速水」なのであろう。速水は偽名で、浜部が本名なのである(こじつけ気味だが語感も似ている)。滝川の懲戒処分としてしか警察は動いておらず、速水の調査までしていないはずだ。歳も「26歳」と「30歳くらい」との違いがあるが、前者は本人がボンクラ気味な滝川に対してそう言っただけで、後者が同性のシビアな目で若く見えることをふまえてはじき出した数字である。同一人物でもおかしくない。また、「美人」と「地味目」という違いもあるが、メイクの差異や評価者の違いでなんとかなるだろう。

現実の事件の動機は「アイドルの春日井に対して誹謗した者への復讐」となっているが、実際には浜部が揉めた相手である春日井の復讐をしようとしたところ、別件で自殺してしまったため、春日井のファンが復讐のために殺人に及んだという偽の真相によって迂遠な復讐をしようとしたのである。同時にこれは警察をあざ笑う復讐にもなっているわけだ。

というわけで、犯人はエミリア&速水こと浜部である。

え? クイーンばりの論理と、アリバイはどうしたって? そこは知らん!

2024年6月5日公開

© 2024 乙野二郎

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