二重のカバー

応募作品

Fujiki

エセー

2,000文字

名探偵破滅派2021年2月(テーマ『神様ゲーム』)応募作。

講談社文庫版の本書にはカバーが二重に巻かれている。外側はのっぺらぼうの両親のあいだに立つ困り顔の少年を描いた一見無邪気なクレヨン画。それをはがすと床に散らばる人形のあいだに座った不気味なギョロ目の猫のカバーが現れる。このカバーの二重性は年齢の異なる読者層にアピールする販売戦略という意味のみならず、本作の一つの解釈の可能性を提示しているように思われた。

「神様」の鈴木君は、芳雄のもう一つの人格である。名古屋から転校してきた実際の鈴木君は重度の自閉症により本来は会話が成立せず、まさに「カメレオンと会話」するようなものである。だが、カメレオンの体色が環境に合わせて変わるように芳雄は鈴木君を違う姿で見ており、トイレでの会話は芳雄が頭の中で作り上げた人格を鈴木君に投影したものである。猫殺しの犯人を当てられたのは「神様」のずば抜けたIQとリサーチ力によるものであるが、芳雄は「神様」が推理や調査をしているあいだの記憶を持っていないため「神様」にはあらゆる真実がお見通しだと思い込む。また、芳雄には出来事が起きた後にこれはもともと知っていたと自己暗示をかける癖があり、テレビ番組出演者の不祥事も「神様」が予言していたかのように都合よく記憶を書き換えている。

ミチルに対する「天誅」は、英樹を殺されたことへの復讐という建前であるが、実際には芳雄が彼女に対する欲望を抑えられなくなったことによる殺人だろう。芳雄はミチルと「エッチなこと」をしたいとずっと願っていたが、「他に好きな人がいる」ミチルは彼を拒絶し、芳雄は失恋の苦い記憶を意識の底に沈めた。英樹もミチルに思いを寄せていたが、親友の芳雄に彼女を譲るつもりでいた。だが、彼女が鬼婆屋敷で別の相手と関係を持っていることを知って逆上し、痴情のもつれの果てにミチルに殺害される。「神様」は洞察と推理によって事件の真相にたどりつく。

「神様」の人格に支配された芳雄は事前に屋上に忍び込み、時計が下校時刻を少し過ぎた16:05になると長針が引っかかって落ちるように細工をしておく。そしてその日の帰りには一足先に校舎を出て校門でミチルが出てくるのを待ち構える。自分が待っている姿をミチルに見せることで、彼女が玄関から時計の下をまっすぐ通ってくるように仕向けるためだ。ミチルが時計の真下に来たのを見計らい、彼は彼女に大声で呼びかけて彼女の足を止めて針が彼女の上に落ちてくるようにする。男根を象徴する針で彼女の体を貫く殺害方法は、芳雄にとってシンボリックな強姦であった。とはいえ、無意識のうちに仕組んだ行為であったため、芳雄にはこれが自分が行った計画殺人であるとは思いもよらない。

母親の殺害は、彼女の上着に前もって液化ブタンガスを染みこませていたのであろう。三歳ごろから「なぜか百円ライターに興味津々で、父さんがそこら辺にほったらかしにしておくとすぐ手にとっていじくり回そうとしていた」という芳雄であれば容易いことである。あとは「ロウソクを十本ともしてよ」とねだって退院祝いのケーキにロウソクを立てさせ、母親に向かってロウソクの火の子を飛ばすだけでいい。

芳雄の母親は思春期前の女児しか愛せない性的倒錯者であったが、地方都市特有の保守的な風土の中で世間体を保つために自分に好意を寄せてくれていた芳雄の父親と偽装結婚した。しかしどうしても男性に体を許すことができず、子どもは作れなかった。けれど親族からのプレッシャーもあり、夫婦は芳雄を養子として引き取ることに決める。芳雄は夫婦のもとで実子のように育てられたものの、どこかで嘘くささを感じ、家族が偽物なのではないかという疑念にさいなまれてきた。誕生日のケーキを「偽物のプーさんのケーキ」と形容し、自分の誕生日が別の日ではないかと邪推するのもそのためである。このことが、彼の人格が破綻して「神様」を生み出す原因となる。

母親もこの偽物の家族の中で自分を抑えて生きてきたが、あるとき息子のクラスメイトであるミチルと道ならぬ恋に走る。ミチルは親の目が届かない家庭環境にあるため、芳雄の母親とミチルの情事は「週一、二回」に及んだ。最初はミチルのマンションで会っていたが、近所の人々の目を避けてミチルが母親を鬼婆屋敷に連れてきたのだろう。もちろんミチルに知恵を授けて着替えを取りに行かせ、英樹の死体の後始末をしたのも芳雄の母親である。警察である芳雄の父親を計画に巻き込むことにしたのは彼が偽物の家族の体面を守るために自分とミチルをかばってくれると踏んでのことであった。この事実を認めたくない芳雄はエディプス・コンプレックスに従って父親が共犯者だとする推理を頭の中で繰り広げるものの、深層意識の「神様」は真実を見抜いて的確に「天誅」を下した。「本当」のバースデイ・ケーキを使った殺人は、偽物の家族に君臨してきた「ママうえ」への反逆に他ならない。

2021年2月4日公開

© 2021 Fujiki

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