審判の日

巫女、帰郷ス。(第22話)

吉田柚葉

小説

2,201文字

水筒を買いました。とても便利です。早く買えば良かった。

もうあと半歩踏込めば目が覚めそうだった。あるいはあと半歩引けばねむりにもどれそうだった。

踏込んだ。

……どこだ、ここ。

そうだ。小田原のコテージだ。星を見たくて来たが、けっきょくねむくなって寝てしまったのだった。

ベッドから起上って二日酔いがないのを確認した。備えつけのコーヒーメーカーで濃いコーヒーを淹れる。そこに焼酎をすこし垂らす。うまい。

スマートフォンが見当たらない。またどこかに置いてきたのかもしれない。昔はよく店に置いてきたものだが、最近は部屋をさがせば見つかることも増えた。だがいまはさがす気力がなかった。マネージャーあたりから連絡が来て、音が鳴ればここにあるし、鳴らなければここにはない。笑える。

外は雨だ。

妙にしずかだった。

「ここに張り付いて生きてくのさ」

と歌ってみた。良い声に聞こえた。昨日よりもずっと声が出ている。だが悪い夢からは抜け出せないでいるのが、わかった。

カラスが鳴いている。中村がカラスをモチーフに良い曲をつくっていたな、と思い出す。あいつはいつも良い曲をつくる。

2023年11月3日公開

作品集『巫女、帰郷ス。』第22話 (全29話)

巫女、帰郷ス。

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© 2023 吉田柚葉

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