賠償責任保険で一儲け! と、思ったのもつかの間の夢で、こと美容整形に関しては、医師賠償責任保険では、対象にはならないとなっているらしい。だから、保険金を患者と医者で山分けしてぼろ儲けとはいかないようだが、一方で、美容整形という分野は、患者から訴えられるリスクが小さく、裁判で負けても賠償額は少なくて済むということらしい。美容整形という治療の性格から、裁判で争うことを患者が敬遠する。「泣き寝入り」が非常に多いということだ。つまり、法廷で「手術前」と「手術後」の写真を提示するなど、自らの恥をさらすことを患者は嫌がるのだ。
それに一般の医療過誤に比べて、美容整形の場合、賠償額が少額になる傾向がある。命に別状がないからだ。そうなると、弁護士を立てて裁判を起こしても訴訟費用の方が賠償額を上回ってしまうことすらある。障害慰謝料は、入院日数、通院日数で決まるものなので、入通院期間の短い美容整形の場合、少額に留まってしまう。同時に休業補償も発生しない。結果、美容整形失敗の賠償額は、治療費に50万から150万程度上乗せした金額にしかならないのだ。これでは、裁判をやる意味がほとんどなくなる。
悪徳美容整形医師は、この患者の弱みを知っているから、「文句があるなら訴えろ」と患者に凄む。患者は、大概が諦めて泣き寝入りするわけだ。だから、美容整形は、適当にやっていても、あまりリスクのない分野ということになる。ただし、昨今は、クリニックの評判はネットですぐさま広がるので、いい加減な手術ばかりやっていると、すぐに悪評がたつ。それに、医師賠償責任保険が使えないとなると、裁判に負ければ、少額であれ、全額自己負担となる。
結局のところ、不正請求で保険医取り消しになって、美容整形に衣替えしても、前途多難ということだ。自由診療で、お腹の脂肪吸引、120万円、太腿の脂肪吸引、80万円….と次々カモが転がり込んでくるというわけにはいかないのだ。経験のない美容整形治療を試みても、施術後のお腹はグッチャグチャ。整形ではなく歪形となる。もう騙されてくれる客などいなくなる。クリニックの中は、閑古鳥が大群で飛び回るようになる。
真面目にコツコツとクリニックを経営していれば、親子三代通ってくる近所のお馴染さんで、待合室は満員になる。結局は、医者の人徳があるかどうかなのだ。(続く)
"超短編小説「猫角家の人々」その45"へのコメント 0件