ソリと言っても、これは空をすべるのだから、雪の有無はとわない。むしろ、雪が降ると視界がさえぎられ、運転のじゃまになる。
とは言え、二十四日の東京の夜に雪が降ったことはこの十年間なかった。赤西の三十八年にもおよぶサンタクロース人生を見わたしても、プレゼントをくばる日に雪がちらついたのはわずかに二度をかぞえるのみで、リーマンショックがあった二〇〇八年と……、あと一度は思い出せなかった。
だが、ことしは雪があった。水っぽい雪で、やたらにサンタ服にはりついた。赤西は鼻の奥に熱い鼻水を感じ、凍えながらプレゼントをくばりつづけた。こどもの寝顔はどれもかわいらしく、いとおしく、そう感じるからこそかれはこれまでしごとをつづけられたのだった。
同期はすでにひとりもいなかった。赤西の無二の親友だった竹中もさくねんをさいごに、このしごとをおりた。プレゼントをくばる家のリストをつくるに際しサンタクロース協会はその選別を国の判断にゆだねており、こどもの親が政治的に正しい思想を持っているかどうかで決定しているとのうわさがまことしやかにささやかれていたのである。赤西はそれをただの陰謀論だと思ったが、かれの親友は信憑性ありと判断した。
――そうでなくても、良い子にはくばり、悪い子にはくばらないというのがおれにはたえられない。ほんらい、悪い子などいないはずだ。
それが、竹中の言い分だった。赤西も竹中もともに六十代のなかばにさしかかり、ようやく世間一般が想像するサンタクロースの容貌にちかづいてきたところであった。
五千件目のプレゼントをくばると、午前一時をすぎた。赤西の経験上、いちばんからだにこたえる時間帯である。トナカイのジョンとメアリのあしどりもずいぶんと重くなっている。
「もうすこしだ」
"良い子にむけて"へのコメント 0件