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絶滅者 21

hongoumasato

「ワタシ」の次の標的。
それは、父をたぶらかした、夜の世界の住人。
売れっ子一流ホステスに、「ワタシ」の刃が一閃する。

タグ: #ホラー

小説

1,033文字

女狐は肥満の中年男性と歩いていた。

 突如目の前に現れたワタシに、驚愕の表情を浮かべる二人。

 こんな反応には、もう慣れっこ。

「おっさん、アンタは消えていい」

 一二才の小娘の命令に、素直に従う中年男。

 ワタシに言い知れぬ恐怖と狂気――それに殺気を感じたから。

 お利口で大変よろしい。

 泡をくって逃げ出す中年男を尻目に、ワタシはリナと向き合った。

 父をたぶらかした淫売。

「な、何なのよ、アンタ!」

 気丈な振る舞い。

 バックからスタンガンを取り出している。

 落ちこぼれバンカー・田端のものよりは安物そうだが。

「あっ! アンタ、テレビで見た女の子! 前にうちの客だったおっさん……藤堂さんの娘なのっ?」

 頑強な地下金庫を日本刀で叩き切り、電車に八人を投げ飛ばしたワタシは、今をときめく有名人。

「ワタシの父をたぶらかしたわよね? アンタは商売だろうけど、どれだけワタシの家族が苦しんだか、分かる?」

 リナから漂う匂い。

 父が彼女に付きまとっていた頃、その服からも同じ匂いがした。

 ワタシにとってその甘い香りは、破壊への誘い。

「私はアンタの親父さんにストーカーまでされて、いい迷惑だったのよ! 恨むなら、私の方じゃないっ?」

 リナが恐怖を必死で隠しながら虚勢を張る。

 さすがは夜の世界の住人。

「アンタの気持ちなんて、どうでもいい。父はアンタに、いいようにカモにされた。その男心を誘う、妖しく淫乱な外見で」

 リナがスタンガンのスイッチを入れる。

 青光りする電流が端子間を駆け抜ける。

 リナの顔も、電流に負けず真っ青だが。

 携帯電話ではなく、スタンガンを鞄から取り出した英断には高評価。

 彼女はこの異常な状態でも、冷静さと生存本能を失っていない。

 携帯で助けを呼んでいる間に殺される、と判断したのだ。

 ご明察。

 闇社会の住人とはいえ、たかがホステスでこれだ。

 本職のヤクザを破壊する際には、それなりの心構えは必要だろう。

 取り敢えずワタシは、女狐狩りを行った。

 

 翌朝。

 顔の表面部分だけを綺麗に切り取られたリナの死体が発見された。

 リナの外見以外に興味は無い。

 悪知恵が働くだけで、頭の中は空っぽ。

 その程度の、ただのアバズレ。

 

 ネットの自殺サイトで知り合った者達。

 それまで互いの顔すら知らなかった者達。

 そんな者達が、集団自殺する時代。

 初顔合せで、車内で練炭を用いて仲良く死んでいく。

 小学生が白昼の校内で同級生を刺し殺す。

 引きこもりの青年が、温かく見守っていた親を平気で殺す。

 

 人間の命とヘリウムは、どちらが重いのだろう?

© 2019 hongoumasato ( 2019年2月18日公開

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