<title> <chapter2:le narrateur trouvé >
二章 見出された語り部
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ところで、ぼくは目を覚ます。バキバキと身体を齧られる悪夢から目を覚ます。世界から取り残されなかったことに安堵して、ほっとため息をつく。目の前にはテレビがついていて、サッカーの試合を映している。それがますますぼくを安心させる。
でも、よく見ると、そのテレビは壁にかかっていて、すごく薄い。カレンダーぐらいの薄さだ。いつの間にあんな新型のテレビが出たんだろう。しかも、試合をしているチームは見たことがない。「ヤマトン東京」と、「アニマ別府」だ。Jリーグの下部チームだろうか?
「起きたか」
声が聞こえる。振り向こうとして、ぼくは叫び声を上げる。アロロロ! 首ががっちりと固定されて動かない。しかも、口の中の異物を噛んでしまう。
「慌てるな、いま外してやるよ」
声は続ける。《なんでも知っている友人》の声だ! 顔は見えないが、その手はぼくの鼻と口に入っていたパイプを優しく外してくれる。
「ひさしぶりらね!」
と、ぼくは喜びの声を上げるが、肺に凄まじい激痛が走るのを感じる。思わず咳きこむ。そのリズムにあわせて激痛が肺を締め上げる。
「大丈夫か、無理するな」
彼が肺に手を当ててくれたらしい。なんとか落ち着く。
「君、少し声が変わっらかい?」
「ああ。なんたって八年がたっているからな。そりゃあ、色々と変わるよ」
「八年?」
「ああ。探索者、おまえが動物園で白熊に襲われてから八年だ」
「そんらに?」
ぼくは眼球をぐるぐる回しながら考える。でも、足し算ができない。脳の機能がだいぶ低下しているようだ。
「いま何年ら?」
「****年だよ」
「ゴメン、桁の多い数字は理解れきないや。語呂合わせれ言ってくれるかな?」
「匂いな、だよ」
「ニオイナ……」と、ぼくの頭にあの懐かしい数字という概念が蘇る!「なんらって! もう二〇一七年?」
彼は「残念ながらな」と笑う。なんだか信じられないような気もするけれど、《なんでも知っている友人》が言うんだから、本当なんだろう。ぼくは観念したように溜息をつく。
「なんてこった……そんなに経ってしまったなんて。一昔じゃないか。なんらか、もうすべてがろうしようもないよ」
「そんなことはないさ。また、これからも今までどおり世界は続いていくよ」
「れも、きっと色んなものが変わりすぎていて、ぼくなんかじゃ……ねえ、よかったら、教えてくれないかな。ぼくが寝ている間に何が起こっらのか」
「たしかに、世界は変わったよ。でも、絶望はしないでほしい」
《なんでも知っている友人》は小さな音で、優しいため息をつく。すべてが終わってしまったことをおおい隠そうとする、優しいため息。
「おまえはオオサカズキ動物園で白熊に襲われて、ずっと寝たきりだったんだ。ほんとうにいろんなことがあった。まず、おまえが寝たきりになってすぐ、同時多発テロがあったんだ。ネズミのいる某テーマパークで天然痘ウィルスがまかれて、大阪の地下鉄が火事になった。いくつかのテロは未然に防がれもしたがね。あと、これは本当に大事件だったんだが、ついに東海大地震が起きた。二〇一二年のことだ。この傷からはまだ回復していない」
起き抜けには信じがたい話だ。が、《なんでも知っている友人》が言うのだから間違いない。
「なんだか、安っぽいマンガみたいな話だね」
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