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経過観察

無花果回

拍手が止んだあと、灰かぶりはどこへ帰るのか。

舞台の袖、誰の視線も届かない楽屋裏で、童話は一枚のカルテに化ける。
靴に足が嵌るとは、幸福ではない。同定である。
寸法の合う検体として値踏みされること——
ここに記すのは、その診断を内側から食い破ろうとする一人の患者の、治癒を拒む独白だ。

タグ: #詩

681文字

患者名 シンデレラ / ID 該当ナシ

※「本名で 呼ばないでください」と 本人 申告

 

【主訴】

ガラスが 足に 入ったまま 抜けません。

いえ、足のほうが ガラスに 入ったのかも。

午前零時シンデレラタイムになると、カボチャの匂いの内臓が

ひとつ、足りなくなる。

 

【現病歴】

舞台ステージの 袖、いわゆる 楽屋裏にて 発症。

拍手の 残響が 鼓膜に 灰を 降らせ、

「わたし」と 書こうとすると、ペンが 「彼女」と 綴る。

この 乖離、初診時より 進行。

 

【バイタル】

体温 拍手の たび 0.3度 上昇

血圧 ドレスの 締めつけ 相当

脈拍 午前零時へ 向け 加速 ─ 零時に 停止 ─

アンコールにて 蘇生

所見 瞳孔に フラッシュ 残留。対光反射、ナシ。

 

【既往歴】

12歳、処方まほうにより カボチャを 馬車へ。

副作用として、零時以降の 記憶、欠落。

処方者まほうつかいは すでに 廃業。

けんたい、片方のみ 提出。サイズ、いまだ 不適合。

 

【経過】

プリンス と 名乗る者、来院。

「これが あなたの 足ですか」と 靴を かざす。

わたしは 笑う。だって 足のサイズで 同定される 検体だもの。

笑いながら 灰を 吐いた。

彼は それを 拍手と 勘違いし、もう一度 求婚した。
── ここで 人称が 砕けます。

わたし/彼女/患者/灰/検体/元・女の子。

ぜんぶ 同一 個体。ぜんぶ サイズ違いの 靴。

 

【診断】

寛解エンドロールの 見込み、ナシ。

本人 談 ──

「治らなくて けっこうです。

零時を 過ぎても まだ 馬車で いられるなら、

わたしは カボチャの 内側で

腐っていく ほうを 選びます」

 

【処方】

鏡 一日 三回。ただし 映らない 仕様。

拍手 頓服。効果、三秒。

灰 適宜。なるべく 減塩で。

 

【備考】

退院後の 行き先、不明。

靴は 返却 不要 とのこと。

次回 予約 ── 午前零時。

© 2026 無花果回 ( 2026年6月26日公開

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