あめのおと
腥田をにゆり
それは秋になり始め、樹がまだ青かった頃のことだが、朝から雨が激しかった。学校に向かう上り坂は放課後では下り坂に変わり、空の色は遅れて未だに東雲のように星一つない浅縹を湛えている。
下った時にちっとも疲れなかった。
ペーブメントの水玉模様を拾いながら駈けてくる自転車は金属の軋み音を立てゝいて、迫ってきた道路脇のなかで譲り合うのに少しぎこちなさを感じた。時に高く挙げ、違う歩幅で上下する通行人を邪魔しないよう、微妙に調整しつゝ、傾いた水筋と共に下げれば、あっという間に傘の裾野が広がって電柱の後ろには電車の走行音と鴉の影が混じった。
いつも立ち寄るコンビニは相変わらず。向かいの神社と見比べると、淡灰色の鳥居よりもその自動扉がずっと狭かった。有機的に繰り返して、色んな人をそこから吐き出してゆく。
証明写真機、ゴミ箱、二台の自動販売機が店先の額縁にギチ〴〵と詰め込まれていた。扉をくぐって、自然に肩が、横へ掛けた傘くらいまで窄まっていた。
「いらっしゃいませ」
濡れた足跡が靴の形のまゝ床に鏤められて、数列の硝子と静まる蛍光灯の下に、彼女一人、清らかな景色のあいだに佇んでいた。隣クラスのSだ。店員と商品棚の距離が隙と共に長く伸びてゆき、細道の奥行きを奪うその肌色は、校舎でのそれより幾分柔らかかった。無防備に緩んだその肩、冷えた毛髪にもやゝ雨の跡が残っていた。
昨季はもう巡ってこないかのように、急に制服が少しも見慣れなくなった。ガウンみたいにパーソナルな気がして、しゃがむ度に頸が白く覗いていた。白一色に昇る黒子を数えるようになったのはいつからか?
彼女はドリンクを一本取り、その丸まった小さな躰は細道を縫うようにすり抜けてゆき、軽やかに当てゝきて、軈て固まってしまった四角い感情を掠め、ビリッと神経が四散した。
レジと自動扉の距離は短かった。
傘のシェードを秋雨の中へスーッと透明のまゝ翻らせて、ざあ〴〵と鳴る瀑布へと溶けてゆくうちに、下校時、チャイムと同じ喪失が叩かれた。
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