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薔薇とうたの日々

合評会2026年5月応募作品

島津耕造

薔薇は咲き、うたは続く。時間が折り返し、廊下は短く、女学生たちはすれ違うたびに目を伏せる。終わりのない円環の中で、彼女たちの生はひっそりと、美しく、燃えていた。

タグ: #合評会2026年5月

小説

670文字

漆喰の白さで知られるその館には、長い年月のあいだ、数知れぬ女学生たちが住まいしてきたというのに、そのうちのひとりとして、館のことを外の世界へ語り伝えた者はなかった。
ある女学生は、この館で生涯を閉じることを、ひそかな望みとしていた。けれど、女学生でいられる時というものには、あらかじめ限りが設けられていると悟った瞬間、彼女は静かに、そして自ら、その命を手放した。
館は薄暗い森のただなかに、白く、凛と、屹立していた。
館に住まう女学生たちは、ある一定の決まりごとのもとで日々を営んでいた。まず、互いに平等であること。そして、廊下ですれ違う折には、目を伏せ、「失敬」と、ひとこと口にすること。
館は、その造りの妙ゆえに、長い廊下というものを持たなかった。それゆえ、遠くから互いの姿を認めることもなかった。車輪の唄にもあるように、この館に集う女学生たちは、それぞれの故郷においてはみな、神童と呼ばれた身であった。
館には長と呼べる者もなく、すべては女学生たちの自治に委ねられていた。館へ入ったばかりの者は、はじめこそ戸惑いながらも、少しずつ言葉を覚え、いつしか館の女学生として、その場所に溶けこんでいった。この館では、時間というものが可逆であった。それは、館の設計士がそのように図面を引いたからに他ならない。館の構造はメビウスの輪を成しており、円環として、終わりというものを知らずにいた。
女学生はひとりとして、この館を出なかった。
わたしがこうして綴っているこの記録も、おそらく日の目を見ることはないのだろうと、思っている。​​​​​​​​​​​​​​​​

© 2026 島津耕造 ( 2026年5月15日公開

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