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神の眠りに関する反証

無花果回

神がねむつてゐた、その夜の過失から、ひとつの心臟だけが止め忘れられた。止まらぬ鼓動は祝福ではない。赦されぬ誤作動として、日々を打ちつづける。これは、眠れる神を起こさぬまま、ひとつの胸が差し出す冷たい反證である。

タグ: #詩

613文字

おまへの胸に
ちひさな打樂器がひとつ。
神さまが
ねむつてゐた、その
お止メ忘レた
つづみよ。

 

とぷ、とぷ、と
夜のすきまへ
零れつづける
鼓動の苗。
やがて根は
誰のものでもない胸の
暗渠あんきょへ降り
他人ひとの脈搏に
がれてゆく。

 

 

神さまにも眠りはある。眠つてゐたから、おまへの心ノ臟しんのぞうのうへに添へてゐた指は離れた。眠つてゐる神を、誰が起こしに行けるだらう。眠つてゐるあひだ、世界を見てゐたのは誰か。眠りは罪ではないと言ふひともゐるが、ねむりそびれてゐる側からすれば、神の眠りはひとつの過失だ。それを赦すには、おまへはまだ若すぎる。あるいは、年を取りすぎてゐる。

 

 

おまへは
あしたを継いで
あさを継いで
継ギハギの
朝光あさかげ

洗はれてゐる。

 

ひと打ち
ひと打ち
あまる
あまる
あまる

 

 

コップの底の水を捨てる。郵便受けに手を入れる。冷蔵庫の音をきく。指の腹で電気を點ける。靴下を裏返す。世界の外縁ふちに指がふれるだけの、それだけの仕事を、おまへは日に幾度もくり返す。心ノ臟は止メ忘レられたまま、ししムラつづみとして、夜ごと、誰のものでもない夜気やきを打つ。輸血の袋に落ちる雫のかずも、戰地でまだ數へられてゐない死者の數も、おまへの拍數の何分の一かである。

 

 

おまへの胸の
忘レ鼓は
今日もなる。

 

止まらぬかぎり
それは
神さまの過失。
止まらぬかぎり
それは
神さまをゆるさぬための
韋乃理ゐのり

© 2026 無花果回 ( 2026年5月10日公開

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