ひとの絶えた野に、
あをい花が、
まだ 咲いてゐる。
ほんたうは、もう
咲いてゐない。
土のうへにも、もう
ゐない。
それでも 焦點の内側で、
花弁のふちが、
誰かの指で うすく
ととのへられて、
死なないふりを してゐる。
これを、誰かが
保存と 呼びはじめた。
──
あなたは
焦點の外にゐる。
畫素の すきま、
緑が にじみ、
輪郭が やはらかく
ほどけてゐる場所。
──あなたの中指の付け根の、
ちひさな硬い瘤も、
笑ふと一拍 遅れる
左の頬も、
焦點の外で
そつと 解けてゐる。
合はないことが、
まだ、あなたを 殺さずにゐる。
レタッチの指は、
弔ひの指でもある。
光の傷を なぞり、
失はれた緑を すこし足し、
死を、もう一秒だけ
うしろへ ずらす。
その指の 一本は、
わたしのものではない。
ひとの指のかたちを 学んだ、
あたらしい指が、
あなたの瘤を、
礼儀正しく
削つてゆく。
──
隅の署名は 読めない。
かすかな漢字のうらがはが、
畫素のしづかな汗で にじんでゐる。
死なないことは、
生きることとは、ちがふ。
それでも わたしは、
この留め針の花野を、
もう一度 ひらく。
あなたの輪郭は、
わたしの 知らないどこかで、
ぼけ
咲き してゐる。
知らないまま、
あすも、ここを
ひらく。
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