暁闇歌集

飽田 彬

1,667文字

惨き夢醒めて安堵のうつつとておっつかっつと覚りし朝よ

幾たびも夢に目見えし回廊の年古り鳴くを辿るも愉し

 

おりおりの夢に訪うかの家のひとも構えも赫々として

 

故知らぬ縁あるらんかの家の夢路のみにし顕れたるは

 

回廊に沿いて連なる茅屋の果てなき迷宮統べるひとあり

 

くれぐれも眠りみるほう前置きて夢語りたしその夢でなく

 

足搔いてもどうせ捕わる醒めぎわと知っていながら逃げ惑う夢

 

惨き夢醒めて安堵のうつつとておっつかっつと覚りし朝よ

 

吾が夢のとき跨ぎ超え汝が夢と往来為すは僥倖なりや

 

やすらかな永遠の眠りというならば夢みてるだろ永遠に醒めやらず

 

大スタア無体な仕事強い迫る珍な夢から醒めての疲れ

 

あの橋を渡るよそうよ吾が町よ市電とことことことことこと

 

炭鉱町はきみが故郷降り立てば吾が手とりにし幼き日顕つ

 

きみともに追いしかの日の奇しき蝶舞い濫るいま乱る眼に

 

他愛なき夜に沁み入るアダージョか仔猫の吐息遠のく汽笛

 

在り在りて震災語るアナウンサーとどろ情動たぎり立ちたり

 

春日向貫くごとくバッハ鳴る青葉の慄き天上の刻

 

いちごパック食器洗剤で濯ぎ喰うそんなひといた思いだしたよ

 

艶めいて匂い競いし紅薔薇の絢なる夏の名残の疵よ

 

喜びや哀しみなんど無かりけり唯そこにあり夏ちぎれ雲

 

明けの靄ためらい匂う白薔薇のなやましき影霞めおののく

 

この街にカモメ住まうも幾とせぞクラクションに潮騒交じる

 

この世にはどってんこくほど幸運もあっていいべさ待つわその汐

 

幾山河越え去り尽きぬ旅ならばいまだあこがれ果てぬあこがれ

 

あこがれはあやしくあまいかなしみをわれにのこしてさてどうしろと

 

藍に染む石狩の野の夕まぐれ褪せし列車の喘ぎ過ぎ行く

 

サブちゃんの熱唱ラジオにハモりたれ菩提のきみよ彼岸渋滞

 

ラジオよりカタカナ字名跳ね出づる悠かな時代翔るがごとく

 

だしぬけに牧水詠う現国の教師顧む秋寒の酔い

 

夜のほどろ鼻さき寒し累代の猫の名かぞえ吾が咎つらね

 

イチイとは俺のことかとオンコ云い俺らのことかとクネニラルマニ

 

散葉敷くチャシ跡丘に言問えど俄たつ風嬲り去りたり

 

カムイチェプ煌めき躍るサッポロのインカルシぺに羆色射す

 

お登勢なる激浪砕くヒロインに頁繰る手の満ち引き委ね

 

げにも糸たぐり寄せたりこのシーンあの俳優たちミラノの奇蹟

 

モノクロの女優佇む町に滲む冬の陽だまりネオレアリズモ

 

イングリッドバーグマンとさイングマールベルイマンとさ同姓だとさ

 

結末を逸るあまりのけんけんぱ彩なすあわいぴょんと跳び越え

 

黒黒と塗られし基の明明と落果累累桜の基に

 

昏き血の沸き出づ淵に滑り棲む太古の魚よ無明長夜

 

校庭を翔るエゾリスの何ごと仰せ給うぞ投票当日

 

投票を終えて繁盛ラーメン店朽葉躙りつ並び立ちおり

 

黄昏に右むけ右と谺して燃え墜つ空 に萌えアニメ声

 

窓越しの声まね鴉忌ま忌ましけけけと応えまた眠る猫

 

歯科受診終えて寄り道ドーナッツ三つ迷いに迷って師走

 

明日からは畳目ひとつひとつずつ薄陽あわいに亡母の声在り

 

いとやすく売られ捌かれ鶏の御子きよしこのよる饗されたもう

 

賢しらに鴉踏み初む白艶の踪跡眩し凛烈の朝

 

雪あかり風声絶え果つ冴ゆる道これより還世ここより歩め

 

雪叱り寒さ呵うを朝夕の挨拶とせし慣い慕わし

 

軒並みにまんまる雀さんざめく梢の端の光の春よ

 

ひとの世はぱっと醒めたき悪夢なり鳥なき空に放つ孫引き

 

疫病もヘイトも戦争も吾が時空のうつつなるか鳥なき空よ

 

暁闇に音なき調べ流るるは水なき国よ鳥なき国よ

 

2022年1月19日公開

© 2022 飽田 彬

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