世田谷通りから網目状の路地に入り、
迷う内に経堂にさしかかっていた。
町は遠くへ夕焼けを追いやり
暗幕をゆっくりと降ろし始めている。
仕事帰りの会社員が足早に家路についている横を
自転車で走り抜け、細い路地を進んでいくと
住宅街にポツンと一軒だけ小さな果物屋があった。
店頭に並べられた果物は
電灯に照らされて、少し白みがかって見える。
季節は秋、一番手前に積まれた籠いっぱいの梨は
一個五十円と赤字で書かれ、人目をひいていた。
私は無性に梨が食べたくなって、五十円の梨を二個と、
店の奥にあった二百円の梨を一個、
百円の桃を一個買うことにした。
店主に前日の台風で濡れた札を詫びながら渡して、
ビニール袋を果物で膨らませた。
それで帰りの甲州街道を、
ハンドルにぶら下げたビニール袋を揺らしながら走ると、
不思議といつもよりも風が心地良く、
思い浮かべる家の灯も、さらに暖かく感じられた。
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