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経堂の果物屋

大川縁

たまたま通りかかった経堂にある果物屋で、目玉の梨に見事に釣られました。店名は忘れてしまいましたが、なかなか印象深い店です。

タグ: #散文詩 #自由詩

400文字

世田谷通りから網目状の路地に入り、

迷う内に経堂にさしかかっていた。

町は遠くへ夕焼けを追いやり

暗幕をゆっくりと降ろし始めている。

仕事帰りの会社員が足早に家路についている横を

自転車で走り抜け、細い路地を進んでいくと

住宅街にポツンと一軒だけ小さな果物屋があった。

 

店頭に並べられた果物は

電灯に照らされて、少し白みがかって見える。

季節は秋、一番手前に積まれた籠いっぱいの梨は

一個五十円と赤字で書かれ、人目をひいていた。

 

私は無性に梨が食べたくなって、五十円の梨を二個と、

店の奥にあった二百円の梨を一個、

百円の桃を一個買うことにした。

店主に前日の台風で濡れた札を詫びながら渡して、

ビニール袋を果物で膨らませた。

 

それで帰りの甲州街道を、

ハンドルにぶら下げたビニール袋を揺らしながら走ると、

不思議といつもよりも風が心地良く、

思い浮かべる家の灯も、さらに暖かく感じられた。

 

© 2016 大川縁 ( 2016年10月17日公開

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