午後十時、小田原駅前の小洒落たホテルの部屋から小田原の夜を眺める。中心部の町割は、北条氏がこの街を作った室町時代からほとんど変わらない。遠くにはライトアップされた白い小田原城が気高く輝いていた。下を見る。鎖帷子のように張り巡らされた路地が広がり、街灯の甘ったるい光、居酒屋の仄暗い光など様々な明かりが何色も重なって騒々しい。路地ではヤンキーが叫んでいた。汚い声を出しやがって。倉庫のスピーカーのほうがよっぽど美しく音を出してくれるし、安価で働いてくれる。生産性が高い。
心のなかで蔑んでいるとノックする音が聞こえた。いよいよだ。意を決してドアを開ける。
目の前に男が立っていた。漆黒のウルフカット。まったく凹凸のない肌は白く、顔は薄く化粧をしている。細くて直線の眉。深い紺青色の瞳はカラコンを入れているのだろう。ヨーロッパの自動人形のような美しさ。こちらが人生のすべてを尽くし丁寧に扱わないと儚く崩れてしまう男。思わず息を飲んだ。
服はゆったりとした紫のビッグTと黒スキニー。ふと、卒業旅行で行ったソウルを思い出した。江南のコエックスモールにこんなイケメンが大群をなして歩いていた。
「はじめまして。水無月咲夜です。よろしくお願いします」
拾った名刺の子だった。運命を感じる。挨拶は滑らか。目はまっすぐこちらを見つめていた。男がいたずらっぽく笑う。ああ、やっぱりイケメンを眺めると健康にいい。胸が高鳴った。
「よろしくお願いします」
緊張しながらつい頭を下げる。
ソファーに腰掛け、咲夜から軽いカウンセリングを受ける。緊張で喉が乾き、咲夜が持ってきたペットボトルの水をカウンセリングが終わるまでずっと飲んでいた。
カラダを洗ったあと、バスローブ姿でベッドに座る。バスルームから咲夜が現れた。バスローブの隙間から見える咲夜の裸体は、獣のようにたくましかった。
「それでは施術のほうに参らせていただきますね」
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