僕は彼女のことが大好きだった
だから彼女と逢うのにお金が必要だという真実を…僕は見ないようにしていたんだ
「あ…」
彼女に逢いにいく度、減っていく預金残高
今日でとうとうゼロになった
僕はしばらくATMのゼロの表示を見つめていた
「 … 」
解っていた、解っていたつもりだった
彼女からもらうアイが愛じゃないってことを
でも僕は彼女に恋をしていた
僕にとっては本当の愛…恋をしていたんだ
・
彼とは相性が良かった
一緒に過す時間は仕事にならなかった
「あ…ソコすごく気持ちいい…」
「やっぱり」
「何で?」
「ん?」
「何で解るの?」
「んー俺もよくわかんないけど…何か解っちゃうんだよね」
「あっ…ソコもいい…」
好きになっていた、逢いに来てくれることが嬉しかった…お金なんていらなかった
「これやるよ」
「何これ?」
「カフスボタン」
「 ? 」
「片っぽ失くしちゃったからさ、もういらないんだけど捨てんのもったいなくて」
「あぁワイシャツの袖に付いてるヤツだ」
「そう、俺といつも一緒にいるみたいでいいだろ?」
「…うん」
「今度逢いに来るときまで大事に持っとけよ」
「 … 」
正直嬉しかった
彼と過ごした時間をお金に換算して、自分の財布にいれることがとても苦痛だった
私と彼のあいだにはお金がある…
・
もう随分彼女と逢っていない気がする
でも僕の預金通帳は未だに残高ゼロ…
逢いたい
彼女に逢いたい
・
「キミ、ものすごくエロいんだってね」
「え?」
「神崎から聞いたよ」
彼の名前だった
「ココが弱いんだろ?」
「あっ…」
「あとココも」
「んっ…!」
「いいねぇ」
彼は…この人に私のことを話していた
ドコがカンジるとか、ココがカンジるとか、ソコがカンジるとか話していた
「…神崎さんは私のことなんて話してたんですか?」
「…ものすごく淫乱な女だから、きっと気に入りますよって」
私は今すぐこの場から立ち去りたかった
彼じゃないこの男に触られているのがものすごく嫌だった
「 … 」
哀しかった、すごく
・
僕はパチンコ屋にいた
『勝て、勝て、勝て!』と念じていた
『逢いたい、逢いたい、逢いたい!』と念じていた
「来いっ!」
今日こそは彼女と逢うんだ!
・
「何か元気ないね?」
「…そうかな」
「何かあったの?」
「何もないよ…逢うのひさしぶりだよね?」
「うん、ちょっとね」
私は仕事に身が入らなかった
「逢えて嬉しいよ」
このお客様には悪いけど、そうやって抱きしめられても…
「僕と君は年齢差もあるし、間にお金があるかも知れない」
「 … 」
「でも僕は…君のことが大好きなんだ」
強く抱きしめられながら、そう言われた途端に私のカラダは反応して、彼との楽しかった時間がよみがえり…私はお客様の手を掴んで股間にあてた
end
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