もうあと半歩踏込めば目が覚めそうだった。あるいはあと半歩引けばねむりにもどれそうだった。
踏込んだ。
……どこだ、ここ。
そうだ。小田原のコテージだ。星を見たくて来たが、けっきょくねむくなって寝てしまったのだった。
ベッドから起上って二日酔いがないのを確認した。備えつけのコーヒーメーカーで濃いコーヒーを淹れる。そこに焼酎をすこし垂らす。うまい。
スマートフォンが見当たらない。またどこかに置いてきたのかもしれない。昔はよく店に置いてきたものだが、最近は部屋をさがせば見つかることも増えた。だがいまはさがす気力がなかった。マネージャーあたりから連絡が来て、音が鳴ればここにあるし、鳴らなければここにはない。笑える。
外は雨だ。
妙にしずかだった。
「ここに張り付いて生きてくのさ」
と歌ってみた。良い声に聞こえた。昨日よりもずっと声が出ている。だが悪い夢からは抜け出せないでいるのが、わかった。
カラスが鳴いている。中村がカラスをモチーフに良い曲をつくっていたな、と思い出す。あいつはいつも良い曲をつくる。
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