夜の浜

浅間のん子

小説

266文字

旅行先でのスケッチ。普段海から遠いところで生活しているので海辺の生活への憧れあります。

気付けば少し前まで降っていた雨は止んでいた。輪郭がはっきりしないほど辺りは暗い。磯の空気はいつにも増して湿っぽい。水溜まりが車道にたくさんできている。僕はできるだけ道の外側を歩く。それでも気遣いのない車が水溜まりの上を走れば、水飛沫は僕の傍まで飛んでくる。歩道が浜辺のほうへ折れるところまで来て、僕は歩みを緩める。ゆっくりと外灯から遠ざかる。微かな波音、そしてそれに応えるように船が何かに擦れる音。フナムシたちが僕のために道をあける。月明かりだけが頼りだ。ずっと向こうの埠頭の光がぼやける。家に着く頃には睫毛は濡れてしまうだろうか。

2023年5月11日公開

© 2023 浅間のん子

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