嫌なことがあっても、溜め込む方だ。
イエス。
〇。
→。
健康診断に行った際、この様なアンケートじゃないけど、イエスノー検診というか、イエスノーのフラグチャートであなたはどういう人かみたいのを診断するみたいのをやった。最初の受付で、尿と便の採取キットを出した際に、
「そうしましたら、中にお入りになってもらってロッカーで着替えてもらって、それで時間がある際にこちらを書いてください」
と渡された。ペンもついていた。
それを待合室でイエスノーイエスノーでやって、最後にその項目が出てきた。
『嫌なことがあっても、溜め込む方だ。』
イエス。
〇。
→。
『あなたはタイプKです。』
タイプK。随分とあるなあ。ローマ字分全部あるのかなあ。
そう思いながら用紙を裏返してみたが、特に何も書いてない。えー、タイプKってなんだろう。そう思ってると名前を呼ばれた。
「次はバリウムですよ」
あ、はい。
検査室に案内される際に、看護師の方に、
「それ出来ました?」
と聞かれた。はい。と答えると、じゃあお預かりしますね。と用紙とペンを回収された。
その後、発泡剤を飲んだりバリウム飲んだりして、げっぷするなと念を押されて、機械でぐるんぐるん回された。
それから、採血をしたり、聴力検査をしたりした。
最後に、先生、医師の待ってる小部屋に案内されて、そこで問診を行った。
「タイプKでしたよね」
バリウムで白くなった胃の写真を見せられて、特に異常も無いですねーなんて話をして、もう終わるかなと思っていたら、医師先生がそう言った。
はい。
はい。そうです。確か。用紙が回収されたんで、もう定かじゃないですけども。
「タイプKはこちらです」
先生医師から手帳タイプの小さい冊子を一冊渡された。
「あまりつまらないことにくよくよしないように」
そう言われて、健康診断は終わった。
帰りのバスの中で、渡された冊子を確認した。タイプKはため込みやすいので、こまめに処理していきましょう。と書かれていた。役立たねえことが書いてあった。
しかし、その次のページに、
『例えば』
という項目があり、
『嫌なことがあったらそれを紙に書きましょう。そしてその紙を箱の中に入れます。そうすることで、あなたの中でそれが処理されます。次に進めるようになります』
と書いてあった。そういうものなのかなあ。と思ったりしたが、でも、冊子を閉じて、少しバスの車窓を眺めているうちに、
「……」
もしかしたらこれは有益な情報かもしれないと思った。
冷蔵庫にタコスの準備をしてきていた。
「健康診断が終わったらこれで酒飲んでやるんだ」
って。
ちょうど、
ちょうど、それで代用できないかな。
バスの車窓を流れる風景を見ながら思った。
家に帰ってから、嫌な事を紙に書きなぐった。子供の頃から今に至るまでの。それから未来の不安と。それをタコスの皮、トルティーヤに思いっきり叩きつけた。紙を。嫌な事を書きなぐった面を。トルティーヤに叩きつけた。
「おおおお」
紙をはがすと薄くなっていたし、反転もしちゃっていたけど、トルティーヤの皮に嫌なことが転写されていた。
そういう皮を、トルティーヤを何枚も作った。
それに辛めに味付けした肉だとか、ネギだとか、アボカドだとかを挟み込んだ。
そして、酒の準備もしていざ食べようと思った時に、
「あれ、これ自分で食べたら意味ねえなあ」
って思った。
嫌な事をしまう箱が自分って、それ意味ねえなあって。自分から出たものをまた自分の中に収めるとか意味ねえなあって。
一人の知り合いに電話した。
「今から家に来れる。お酒飲もう」
と提案した。
知り合いは何も知らずに缶ビール六本パックを持ってふらっとやってきた。
「これ食べてくれない」
その知り合いに食べさせた。
「ああ、意外とおいしいなあ」
知り合いはそう言いながら食べた。タコスを食べた。私の作ったタコスを食べた。
私は愉快な気持ちになった。その知り合いが一口食べるたびに、愉快な気持ちになった。三年峠の話みたいに。一口食べるたびにどんどんと愉快な気持ちになっていった。
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