彼がその小学校に転校してきたのは五年生のときだった。担任の吉川先生に連れられて、教壇の前に立って名を名乗り挨拶する。転校生のお世話係として、ケセラくんが指名された。彼は世良という苗字で周りからケセラと呼ばれていて、驚くべきことに吉川先生までもが彼を「ケセラに世話を頼む」とケセラ呼ばわりした。ケセラくんは「はーい!」とくしゃくしゃの笑顔を見せた。転校生は教室中の視線を集めながらケセラくんの隣の席にランドセルを乗せた。
「おまえはルンバな」ケセラくんはそう言って、転校生の肩に手を置いた。え? なんで? という疑問を口にする前に吉川先生が「じゃあ、授業始めるよ」と教壇から呼びかけた。ケセラくんは転校生の机に彼の机をくっつけて、転校生にも見えるように国語の教科書を開いた。
「なんで、ルンバ?」転校生は顎髭を付け足された夏目漱石の写真の上から、さらに襟足の髪をシャーペンで描いているケセラくんの横顔に尋ねた。
「あ? ルンバって知らない?」ケセラくんは怪訝な顔を転校生に向けた。
「知ってる……けど」
ケセラくんは、転校生を足元からなめるように見つめた。「やっぱ、ルンバっしょ」頷きながら、あたりを見回し「おい! チンなし! こっち来い!」と叫んだ。ガタッと窓際の机からちんなし芳一と呼ばれる男が立ち上がり、なぜかすり足でケセラくんのもとにやって来た。ひょろりとした背の高い痩せた男は群青色のTシャツの上に白いベスト、デニム地の半ズボンから伸びた日焼けした足に白いハイソックスという出で立ちで、上履きを履いていなかった。
「ルンバに見せてやれよ」ケセラくんはそう言って笑った。見せる? なにを? 転校生は戸惑いながら半ズボンのチャックに手をかけた、男の所作を見守った。彼は半ズボンを脱ぎだし、白いブリーフ姿になった。
「ちょ、なにやって……」驚く転校生をケセラくんが制した。ちんなし芳一くんはブリーフのゴムの中に親指を突っ込み、勢いよくずり下した。転校生は固く目を閉じた。
たけや~さおだけ~♪
教室の外から聞こえてくるおじさんの声が卑猥に響く。「ちんなし、お前の竿が回って来たぞ(笑)」ケセラくんの一声でクラスのみんなが笑った。
「ルンバ、現実から目え逸らすなよ」転校生の背後からケセラくんが両手を回して、瞼を無理やり開いた。そこにはおじさんがいた。おじさんに見える何かではなく、おじさんである。バーコード状、側頭部に残った髪が禿げあがった頭に頼りなくのっていて厚ぼったい唇の周りは青ひげで覆われている。丸いだるまのような顔の下は二重顎に首が埋もれ、ピンク色の乳首の周囲とビール腹のへその上に毛が生えている。彼の足先はちんなし芳一くんのちんの部位に埋まっていた。
「よっ!」
「誰ですか?」
「さおだけです」
「え?」
「ちょっと待ってください、いま金さん、玉さんを呼びますから……おーい! 金さん、玉さん、懲らしめて御上げなさい」
さおだけおじさんの足元の下から、やはり全裸中年男性が二人現れた。さおだけと違って、彼らは腋毛すらない全身脱毛された筋骨隆々の肉体だった。彼らは、逆上がりをするように交互に腹筋をしながら振り返って満面の笑みを浮かべた。
「控えおろう~! ここにおあす方をどなたと心得る? 恐れ多くも先の天下のチンなし副将軍、さおだけ公にあらせられるぞ! 控えい、控えい」玉さんは便所の落書きのような男性器の刻印された印籠を掲げた。
ははあー
クラスのみんなが膝を立ててひれ伏した。転校生は意味が分からずその場に立ち尽くした。
「ちーんーなーしー、ち、ん、な、し、ちんなし! ちんなし! ちんなし!」ケセラくんが立ち上がり、手拍子しながら連呼する。みんなも立ち上がり、ちんなしコールの合唱が起こり、ちんなし芳一くんはさおだけ一行もろともみんなに持ち上げられて胴上げされた。転校生も笑顔で胴上げに加わった。
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