ペンウィー・ドダーと不愉快な山羊が溶けるまで。

巣居けけ

小説

3,835文字

山羊学部山羊学科を出ているペンウィー・ドダー。彼は医学界隈をうろつく。医学に関する免許を五つほど取得していると噂される。

砂漠のような金平糖。医学者どもは資料に糖分を求めている。駄菓子を支持する薬剤のフロント企業の、窓際にある岩塩隕石が、雲の隙間に恋をする。彼の中の鉱物たちは、精巧な医学と野生的な動物的心理学との蟠りの中で、立派な幼少期を過ごした人間へと変化していく。監察医として潜伏しているペンウィー・ドダーが、オカルトと揶揄されるキャンディ・シティの調査に乗り出した朝の五時。バックヤードに変装した部下を二人だけ連れて、かの街の隅の、蚊の死骸が張り付き続けた門を叩く……。

ペンウィー調査隊は二日目にして、伸縮自在な変化系統の、階段状になっている遺伝子電子レンジを発見していた。
「君は報告。僕はさらなる調査。……君は、新しいキャンディを買ってきてくれないか」
「必要でしょうか?」と脅しまがいな文句を垂れる部下の一人。ペンウィーは彼を、もう片方のロクデナシの前でキャンディ山羊に変化させる。「めぇ……。ああ、いいえ……山羊山羊?」掴みどころの無い、メタリックでステロイドのような声。
「君は報告が終了次第、向こうのオアシス店でキャンディを買うように。あそこの従業員は丁寧な口調だ。くれぐれも、喪服的に、ね……」ペンウィー・ドダーは配達係のような投げキッスをすると、英雄のように砂煙の中に消えてゆく……。キャンディ山羊は彼の、すっかり茶色くなった水玉模様の見せつけ専用パンツを監察する。部下は、ノートパソコンで学会のホームページに直接アクセスをすると、右の隠れたバナーから、専用の個人アカウントにアクセスを試みる。

オアシス店の従業員だけが、彼らの蹴り痕の観察を始めた……。

路地裏住まいの薬物常用者たちは、自分の腕や脚に出る瘡蓋の形や間隔、さらには個別ごとの痒さで、その日の薬物の回り具合を見るというが、いつも通りの山羊ども、そして喪服を着こんだペンウィー・ドダーは、自分の唾液の分泌具合で、その日の薬物の回り具合を予測している。
「僕は人間を山羊に変える能力に長けている……」ペンウィー・ドダーは監察医の同僚にそう吹き込んでいる……。彼はいつでもフォークのような歩き方で医学界隈を進む。その様に惚れこむ老人教授も少なくはないが、大半はそのハリウッド女優的な大胆さを妬み、狂い、落ち込んで酒と珈琲を飲む。しかし薬物はやらない。教授たちはそれに関心が無い。自分の研究がそれの代わりだから、薬はやらずに大学の飲み場でたむろする。そして片手間で書いた論文で、学長室に呼ばれる。

ひどい教授は、例のペンウィー・ドダーが自分の研究室に近づく度に、引きこもりのように部屋の一番奥の壁にへばりついてしまうという……。

市街地と呼ばれたバウンドボールを、山羊の形の金メダルに挿入。その度にペンウィー・ドダーは、幹部をピンセットで弄ばれているような感覚に陥る。助手に昇格した元部下が、その姿を右後ろから覗いている……。洞窟的な暗さと、岩の裏のダンゴムシのような肌の音を持つ彼女は、高校生の時代に喜んで新聞配達員を刺殺した感情を呼び起こす実験を進める……。

刃物の鉄分を体内に入れられた配達員は、こぞって配達係室に逃げていく。そして室内の金平糖のプレス機に自身の身体を滑り込ませて、下町のレモンサワーのような爽快感と共に配達係へと成り代わる。九十度の腰の曲がりを経験した後に着席をし、何も知らない餓鬼のような顔で退室をする。係としてのバッジすら身に着けていない彼らだが、堂々と長い廊下を歩いて街中に出る。すれ違う上官は、ただ、新しい部下が増えたとしか考えない。

同性の教育者だけが、削岩機の披露会を視察したいと志願し始める……。同様の配達員たちは、同性の性器の模型を所持している……。
「あれじゃあ、車には勝てないよ」配達員が山羊の組体操をして、横断歩道の老婆を担ぐ。
「どこに行こうとしているの?」
「オアシス店」

配達員は急いで砂嵐の煙突に駆け込む。プラスチックとポカリスエットの自動ドアの前で老婆を下ろし、自分だけがカウンター越しのオカマ店員に凄む。
「これは人参よりも安い注射器だよ」かつて茶色い水玉を見つめた目をしていた……。
「なら、それを百本ほど」
「ウチはらーめんしか置いてないよ! ジャンキーなら、さっさと帰りな!」そうして愛犬のドックフード皿を投げる。らーめん屋として機能する『オアシス店』の、煩い引き戸に一ミリのへこみが完成する。

瘡蓋駅から一本道で徒歩五分。居酒屋に訪れる今晩の音を妄想しながら、注射器を崖に突き落とす訓練を片手で繰り返す。個人営業のパン屋の角で右に回り、そこから見える海沿いをさらに十分で、枯れ木のような『そこ』にはたどり着く。必ず秀逸さを液状にしている山羊たちは、自分の注射器を複製した人間どもを徹底的に嫌う。林檎をかじったのは三脚の下の山羊であって、薬剤師の山羊ではないから。

金平糖と甘い香りの薬剤関係資料で作られたアスファルトが、瘡蓋のように盛り上がって完成した門を通り過ぎて、油が漂う敷地内の、フード・ボウルが埋め込まれた床に足を入れた山羊。道楽的な大黒柱のような欠伸で、スパゲッティを作り出す。右奥の厨房に二足歩行で入り、底が一ミリだけへこんだ中華鍋を振るう……。先には元店主の金髪女の顔面が必ず存在している。
「これは人参よりも安い注射器だよ」やはり、かつて茶色い水玉を見つめた目を続ける……。しかし山羊は、山羊山羊号令のみを口にする。山羊どもは注射器専門の複製技師を強く嫌う……。

暗闇の中で胡坐を続ける山羊。太陽を口の中に入れたと嘘を告発したものの、歯科医の口内検査では微小の異常すらも無しを言い渡され、全ての生徒の前で恥を浴びた子供の白山羊。ワインのような青春を見返りとして献上する、頭髪で作られた八割ヘリコプターの座席の香りを、時間よりも長い舌の粘液で喪失してしまう、右腕の無い山羊頭の人間……。
「いつまでも動物に頼ってんじゃねえ。おれたちは電信柱の下で生まれたんだぞ?」スナック菓子の油を隣人のシャツに擦り付ける配達係。革のズボンで生理を検知し、すぐに女子高生を路地裏に連れ込んでパンツを奪う。
「ちょっと、何するんですか!」

配達係は女子高生のそばかすのある頬にビンタを披露して、取り上げた桃色のパンツを自分の下着に入れてみせる。「おお! こりゃあ良い!」
「ほれ、パンツを返してほしけりゃ、おれの下着に手を入れるんだな。それと額にキッスも」まるで宇宙船の機長にでもなったかのような態度。怠惰の腹を突き出して、両手を腰に添えて鼻を鳴らす。下手くそなトランペットのような声がガチャガチャとした口から漏れると同時に、たるみきった顔に女子高生のバッグが炸裂する……。
「いらいらさせるなよ! ただの豚が!」ミミズの死骸が散乱する地面に、大の字で伸びた配達係。丸い腹が小山のように見えたので、女子高生はそれにかかとを落とす。「おお! こりゃあ良い!」
「ま、待ってくれ! おれは配達係だ! 配達員ではない。だから、なんでも用意できる!」首だけを動かして女子高生を見上げる。鼻の位置にあるローファーの先をひと舐めする。「へっへ。これは良い薬になる。へっへっへっへっへ……」
「ああまったく気持ちが悪いですね! どうしてこの町の配達係の男どもは、こうも気持ちが悪いんだ?」脚を腹から離し、吐瀉が溢れそうな口を片手で覆う。配達係はその間に自分の下着から女子高生のパンツを取り出す。
「へ、へへ……。君のパンツも取り出せるんだ……」白い粘液と絡み合い、すっかり萎んだパンツ。烏賊よりも海水臭が強めな、薄桃色のパンツ。

すぐに二度目のバッグが顔面に炸裂する。男の肉体はそこらのミミズの死骸と同価値にまで跳ね上がる……。
「貴方の行いの影響で、その女子高生は不快感と共に配達係に対する強烈な恐怖を覚えました。これは、災害ほどの非常事態と見ていいとは思いますが、貴方が女子高生の……その、下着に」
「違う、パンツだ」
「パンツ。女子高生の桃色パンツに、自分の液体を染み込ませた件に関しましては、私だけでは判断できません。どうしてそのような醜く、鬼畜と呼ばれるに値する行為をしてしまったのか……私は貴女の上官として、あるいはこの街でただ一人の女配達係として、女子高生と同等の恐怖を感じます」配達係室からの去り際に呟く緑眼鏡の女上官。新聞紙で隠した口に漂う昆布の残り香が配達係本人を苦しめる。
「アンタは刑務所に入るべきだ!」押しかけ高校教師はひじきのような口で叫んでいる。

 

郵便物を確認しても、誰の足跡も付いていない。カードレスのコンビニエンスストアは、それだけの日常に元旦の朝の赤色を見出すことがある。連中は、白い結晶をチョークだと思い込むことに大人の権利を使い果たす。どこにでもあるマンホールを舐めている……。誰もが下水道の味を知っている……。全員の肌に微小のマンホールが存在しているから。背中の洗濯板が、蜜柑の皮を無事に溜飲できる板に改造してくれる……。

都会の山羊と人間たちは最新のプリントアウト技術を信頼している。だからこそ、田舎の連中に引っ掛けられる。
「アンタは壁のような階段をどうやってやりすごす?」
「ドローンを使うさ」
「あーあ、これだから」

白山羊は三千円札を置き去りにしてカフェテリアを出る。あとから出てきた都会の山羊の額に青い淡を履いて、アメリカの道楽主義の若者のような大股で通りを歩く。しかし数歩でスリに遭遇する。

2022年1月19日公開

© 2022 巣居けけ

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