夏やすみにプールでおぼれて男の子が死んだらしい。となりまちの小学校でおきたことなので、ぼくの耳にはいるまでにすこしじかんがかかった。
「かわいそうに」
という妻の声はいかにも悲痛だ。
「ほんとうにね」
と、ぼくはいごこち悪く、こたえた。てもとのビールがはいったグラスに、しぜんと手がのびた。
妻が不妊治療をはじめて、半年がたった。まだ結果はでていない。子どもの話題は、なるべくならさけたかった。
妻がさきにとこについた。
ぼくは書斎で、エッセイのつづきを書いた。『ソーシャルディスタンスの時代』というテーマで、いまさらぼくに何を書けと言うのか、すこし書いては消して、すこし書いては消してをくりかえした。
「ことに子どもたちは」
と書いて、さきがつづかない。子どもたちについて、ぼくにはおもうところがなかった。
死んだ子について、かんがえた。どんな子だろうか。妻によると、四年生で、なんでも、ハーフの子だということだが、ずいぶんと水泳がとくいだったらしい。それが、おぼれ死んだ、ということだから、なぞに感じる。
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