靴下

渡海 小波津

小説

672文字

本来セットであるべきものなのかもしれないが、今の私にとっては必ずしもそうではないのだ

靴下

 

「ねぇ、私今度こーへー君の家行ってみたいなー」

すれ違ったカップルの言葉が右耳を掠めていく。私は、この頃街でカップルを見つけることが多くなったように感じる。それは秋が近づいてきて、寒いと感じる日が増えたからだろうか。なるほど、街路樹も黄葉をはじめ、私の行く道、過ぎた道をはらはらと散っている。枯葉も冬を越す虫たちの布団となると思えば心温まるようにも思えたが、私の両手はポケットに入ったままだった。

 

アパートの部屋は先月一階に変えたばかりだ。段差を埋めるために玄関にはスロープを置いている。

家に帰ると洗濯機を開ける。先月、コインランドリータイプの手前に開閉できる洗濯機を買ったのだ。出し入れに負担がなく、使いやすい。これから少しずつ生活に関わる物は買い換えていけばいいだろう。キッチンの高さは合わないので、レンジと惣菜物で済ませているが、この生活を続けるのは明らかに身体に毒だ。そんなことを考えながら洗濯物を干しつつ、私はテレビを眺める。天気予報士は今年の紅葉シーズンの予想を言っており、冬の訪れを知らせているのだと改めて感じさせる。そして、彼の人と行った去年の紅葉狩りが遠い昔のように感じられた。

枯葉を見て何が、何が楽しいのか。今ならそう思える程だけれど、先月までは、そう。この世のすべてに幸せを感じられていたのは確かだ。

今年は暇を見つけて手袋を編もう。手袋なら両方で一セットになるから。

私にも、夕刻のカップルのように組みであるべきものが欲しかったのかもしれない。洗濯ハンガーに吊るされた靴下は片方しかない。

 

2012年10月24日公開

© 2012 渡海 小波津

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