ブルーベイべ

シ小説(第2話)

七曲カドニウム

小説

1,300文字

シから私、シから死、シから詩、シ的小説。

 ネ兄でも口兄いでもある、青。

 

 孕んだ腹んだ波乱だの幕開け。母の窮屈な産道を大泉門を歪ませて尖った頭蓋骨で通過したときから、何かが欠けてゐたのです。それは青色によってもたらされたる一つの確証でもありました。
 
 ぷち んと切れたのは鼻緒ではなくて動かぬ冴え冴えとした静脈。こめかみ辺りの毛細血管の青い血が皮下で弾けて、ぬる りと股の間から赤い血塗れの私が産まれ落ちたのであります。
 産院の白いタイルの床が月光に照らされ、ぬめぬめと輝いておりました。
 確か、満月の夜でありましたか。
 母はれっきとした一匹の獣でもあり、ざんばら髪に夜叉の顔、血で染まった薄紅の長襦袢、不吉な予感を感じたとか感じなかったとか。
 鳴かぬか、鳴かぬか、泣かぬのか。
 訝しげな目つきで青子を診る。
 もはや赤ん坊ではなく、日陰の苔むした石の様であったと。
 口唇、爪床までも、青が静かに蝕んでおりました。
 みるみる青黒くなる、たかだか二千瓦ほどの身体を真っ逆さまにして、蒙古斑の浮き出た尻を助産師が叩き上げる、やっとの思いで、わたくしは哭ゐた。
 おぎゃ あ、と、産声をあげて、その瞬間からはわたくし逝きたのです。
 青子、として。
 ぶつ んと鋏を入れられる前の螺旋を描く臍の緒は当然のやうに輪廻の鎖にも見えたことでしょう。
 曰く付きの忌み子として。

 

「おお、青ちゃんよ」

 

 はちきれんばかりに発達した乳腺が疼き、乳房から滴り落ちる白濁した血潮を青子に飲ませようとして裂けた痛む膣口に響かぬやうに、そろ りと歩むと新生児室の並ぶコットの中で一際青い、愛おしい我が子を見つけたのです。すぐに判った。
 
 高次元の直交座標系で表すのであれば、青ちゃんはP(-6,-6,-6)とそんな具合で、それは数値化された事実でありました。真実と云ふものが人の頭数だけ存在するとなれば、嗚呼、己の影を見積もって斜め下の位置くらいかしらと感じ思ゐ込むのは、それは事実ではなく、真実でありましょう。
 このふたつのの間に隔たる深き溝は、これから先も私を大いに困らせたる要因でもありました。
 
 人を呪わば、穴二つと何処ぞのお偉いさんが云ゐましたな。
 さて、前世の記憶なんぞ御座ゐませんが、呪ったのでせうか、私自身が。
※繰り返しますが記憶には御座ゐません。
 喞筒を挟んだ壁に穿たれた穴二つ。
※繰り返しますが記憶には御座ゐません。
 喞筒に跨り騎乗した、酸素を吸い込み潤んだ真っ赤な大動脈。
※繰り返しますが記憶には御座ゐません。
 肺に繋がる肺動脈漏斗部の狭窄。
※繰り返しますが記憶には御座ゐません。

 

 幾度かの切開をし、跳ね上がった生存率に、お赤飯は無用です。
 ゐつのまにやら獣臭のしなくなった母は総てを忘れたのか、それはそれは穏やかな眼と手で、餅米を計量カップで三合、しゃら りと量ったのでした。
 青くも歪曲した畸形の心ノ臓のせゐで私はランドセルまで青を望みましたが、青と赤、二律背反のふたつの勢力によって阻止される運びとなりました。
 とどのつまり青子のまま、逝きたかった赤子だったのでしょうか。

 こんにちは、青ちゃん。
 私がママよ。
 
 
 

2019年11月16日公開

作品集『シ小説』最新話 (全2話)

© 2019 七曲カドニウム

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