ホールの外に出ると、強い視線を感じた。見ると、スーツを着た長身の若い女性がこちらをじっと見つめていた。目鼻立ちのはっきりした顔立で、黒髪を後ろできつく束ねているらしかった。年頃は四十を少し超えた位か。私は、不信に思いつつ、顎を突き出すように曖昧に会釈してみた。すると女性も会釈し、こちらに寄って来た。
「初めまして。」
と女性は言った。やはり初めましてらしい。
「あァ、どうも失礼しました。いや、どこかでお会いした事があるのかとおもいまして……。」
と私は言った。
「お会いするのは初めてですが、ここにいらしている時点で無関係ではありませんから。」
と女性は機械的に言った。女性の視線は、真直ぐに私の目に向けられている。一時も外さないけはいだ。私は、その視線から逃れるために、腕時計確認する演技をした。
「そう云う物なのですかね。どうも私にはよく判らなくて。」
と言って私は女性の反応を伺った。女性は、
「初めて来られたのですか。」
と問うた。
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