暗い通路の向こうから、おまえの足音が聞こえてきて、おれは身震いをする。
踵が笑っている。
ゴム手袋をはめた手で、背骨を愛撫されたみたいに、寒気が鈍い痛みになってのぼってくる。
おまえが近づいたぶんだけ、部屋は、細長く延びていく。
おまえは部屋の前を通り過ぎ、反対側に遠ざかる。
おまえが遠ざかったぶんだけ、部屋は、ぺちゃんこに潰れていく。
おれはじっと待っているのだ。
なのにおまえはちっとも立ち止まりやしない。
おまえはただの足音だ。
だけど世界を踏み潰せるくらいの足音だ。
もっとも、おれの知ってる世界なんて、壁に囲まれたこの部屋より広くはないんだが。その外にもまだ知らない世界があるってことを知ってるってことが重要じゃないか。
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