そこまで書いて私は鉛筆を置いた。どうも夜中は筆が滑り過ぎる。上着を着て、少し外を散歩し、家に戻ると、床に就いて目を瞑った。其れで何時の間にか眠ってしまったらしい、目覚まし時計の音で目が覚めた。私は、鬱屈した想いで、用を足しに行った。ひどく切れが悪かった。
部屋に戻ると、机上には、先程の原稿があった。原稿用紙で五枚。読み返すと、これは大凡研究とは言えない物だと感じた。主観が強すぎる。つまり「私」が出すぎている。私は、尿のだらしなかったのを引きずる気持で、もうどうにでもなれと感じた。どうせ私は、端から大した研究者ではないのだ。
と、そんな風におもうと、突然、ある考が私の中に起こった。
――もしかすると私は、本当は小説を書きたいのではないか。
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