絶滅者 29

hongoumasato

小説

1,085文字

ついに教祖・樹光との最終決戦をむかえた「ワタシ」。
無敵の能力を持っているはずが、絶命の危機を迎えてしまう。
樹光が宿す、想定外の力。

人外の二人がぶつかり、戦い、殺し合い……そして……

部屋に入った途端、胸騒ぎを感じた。

不安、不吉……言葉で表現できない悪い予感。

それはすぐ、現実となった。

樹光は床に奇妙な魔方陣を描き、作務衣を着ていた。

何か、呪文を唱えている。

胸が苦しくなった。

息ができない。

全身の毛穴が開き、冷たい汗が噴き出す。

樹光は額から汗を滴らせながら、目を閉じて一心不乱に呪文を唱える。

これが樹光の能力!

完全に侮っていた。

体中から抜け落ちていく力。

遠くなる意識。

膝をついてしまった。

このままでは殺られる。

肉体の再生能力は役に立たない。

樹光なら、ワタシの魂ごと消滅させられる可能性がある。

この貧相な教祖には、それだけの能力がある。

瞼の裏に、あの病院で廃人と化した父の姿が甦った。

優しくて誠実だった父。

己の醜い延命のために、その父を劇薬の実験体にした男。

歯をくいしばった。

最後の力を振り絞った。

霞んでいく目で、狙いを定める。

日本刀を樹光に放った。

大きく見開かれる樹光の目。

刃が、正確に彼の心臓を貫く。

ワタシは意識が無くなる寸前に、瞬間移動した。

強敵を仕留めた日本刀と共に。

目が覚めた。

ワタシは横たわっていた。

ベッドに。

かつて父が廃人となって横たわっていたあのベッド。

ここは、あの邪悪な病院だった。

だが誰も、この部屋のことなど気にかけていない。

総本山での異常事態発生が、ここにも伝わっている。

院内は大騒ぎだ。

ワタシはゆっくり立ち上がった。

安堵した。

肉体と精神は完璧に回復している。

樹光を透視したとき、狂人達の本質を見た。

絶滅者を殺せる程の能力を持った樹光なら、子ども達の難病を癒すことは容易。

なぜ樹光はそれをしなかったのか?

樹光の力を知りながら、なぜ会員である医療関係者が救いを求めなかったのか?

「面倒くさい。死ねばいい。さっさと寄付だけしろ」

それが樹光達、このカルト集団の総意。

病室のドアを開けた。

子ども達の苦しみを、千倍にして味わってもらおう。

父を好き放題に試験体にした会員達を、好き放題に破壊しょう。

直に、この不自然な真っ白の建築物は、鮮やかな赤色のそれへと変わる。

その色こそが、この邪悪な狂人どもの巣に相応しい。

多くの人間が、新興宗教に入信している。

地下鉄サリン後も。

誰もが孤独。

混沌とした社会で、自分の居場所を見つけられずにいる。

不安や絶望を感じた時、助けてくれる人間がいない。

善行を行った人間は、黄泉で輪廻する。

だがそれは幸せなことか?

また、生きなければならない。

また、苦痛を味あわねばならない。

また、死の恐怖に脅えなければならない。

変えられない、死すべき運命。

ならば、生まれてくる意味は?

なぜ、生きなければならない?

人生は生きるに値するか?

2019年2月20日公開

© 2019 hongoumasato

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